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「中編」
Secret Code

Secret Code 9

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「これ!」

勢いよく立ち上がり、痛めた足を庇いながら机に駆け寄った琴子は机上に散らばった写真をかき集めるようにして手に取った。
食い入るように写真に見入る琴子を確認すると、直樹は救急箱を手にゆっくりとその小さな背中に近寄る。
写真がなくなり、空いた机の上に救急箱が置かれると音を立てないようにと配慮したわけではないので、かたりとそれなりに音が立った。
それでも琴子が背後に立つ直樹の存在を気にした様子はない。

3枚の同じような写真を穴が開きそうな勢いで見つめる琴子の背後から覗き込むように手元を見る。
直樹が自ら撮影したその写真は全て大皿の裏面のみが撮影されており、一見すると同じものを写したように見えた。
それでもそれが全て別のものであるのはすぐに分かる。
裏面。
高級な焼き物であれば窯元の刻印が入るだろう位置にはおよそ無関係に思われる文字があった。
松本家、高宮家、鴨狩家。
それぞれの皿にそっと。
―その暗号こそ琴子の目的だと直樹には分かっていた。

「おい。」

放っておけばいつまでも写真を見ていそうな琴子の注意を引くべく声をかける。
しかしそれでも琴子からの反応はなかった。

「おい。」

もう一度。
先ほどよりは少し大きな声で声をかけるものの、それでも反応はない。
直樹はひとつ大きな溜息を吐くと、長い腕を伸ばして琴子の肩を抱いた。
急な重みに直樹の腕の下にある琴子の肩がびくりと跳ね、手にしていた写真が床へと落ちる。

「きゃっ!っ」

大声を上げそうな琴子の口を、直樹はなんなくまたその大きな手で塞いだ。

「静かにしろ。」

いつの間にか近くにいた直樹の手で口を塞がれた琴子は、こぼれんばかりに大きな目を見開いた。
後ろから閉じ込められるように回された腕に気づき、琴子の心臓が弾けんばかりにどきどきと音を立てる。
耳までを赤く染め固まる琴子に、直樹は思わず苦笑した。

「…騒がねぇか?」

こくこくと激しく首を上下に振って答える琴子を見て、直樹はそっとその小さな体を開放する。
息を止めることはしていなかったはずだが、どうやら鼻で呼吸をすることすら忘れていたようで、琴子は手を外された途端肩で大きく息をしていた。

「さっきから女の子の口を何度も…失礼じゃない!」

少し落ち着いたのか、赤く染まった頬に涙を滲ませた琴子はきっと直樹を睨む。
ぷりぷりと丸い頬に空気を溜めた琴子は怒りを表すように腕を組んだ。

「お前の声がでかいからだろ。」

口を突き出した琴子の顔はお世辞にも怖いとは思えず、直樹は鼻で笑う。
ますます琴子の口が尖るが、何か言おうとした琴子の口を今度は指を一本当てることで塞いだ。

耳をそばだてると静かに階段を上る音がして、琴子と直樹がいる部屋の扉がとんとんと控えめにノックされた。




お久しぶりです。
どれだけの方が来て下さっているのか分かりませんが、更新もないのに拍手ありがとうございます。
さらっと遊ぶはずだったこの話。
なぜこうも長くなっているのか。

長編の方も書こう書こうと思ってはいるのです。
短編も。でも妄想で満足してしまって内容が思い出せない、まとまらない。
他の方の素敵なお話を読んでにやにやする日々です。
残暑も厳しいですが、皆さんお気をつけ下さい。
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