「短編」
結婚前
Kissからはじまるミステリー
昔のことが多少あったとはいえ、直樹は自分でもなに不自由なく育てられたと分かってはいた。
それでも我ながらひねくれた性格だと思うようになったのはかつて経験した、周囲の打って変わったような変わり身の速さと、それまでとはあまりに違う冷たい視線のせいに他ならない。
それまでの憧憬や思慕の視線は一夜にして完全に嘲りや中傷のものに変わり、一面でしかものを捕らえない愚かさをまだ幼い直樹に十分すぎるほど教えてくれた。
人間の汚さや冷たさも。
それまではもてはやされていたが、それすらも一瞬にしてなくなると思うと不必要だとしか思えなくなって、直樹はそれまで気づいていた小さな社会を自ら切り捨てた。
それと同時に、直樹の母親に対する認識も代わった。
それまでの直樹にとって母親は自分に一番の愛情を注いでくれる存在だった。
しかし直樹の人間不信の原因が、彼女の暴走癖のある性格に起因する部分があるせいで注がれていた愛情分、間違ったことをされていたように思えて余計に直樹を追い詰めた。
今でも母親の愛情を疑うことこそないが、素直に母親に従ったり内心を打ち明けたりすることもない。
何事にも苦労をしない境遇や才能は直樹から人に対して心を開く機会を完全に奪った。
羨望や嫉妬、向けられる視線の全てが煩わしいと半ば本気で思っていた。
「あ、あの入江くん、これ!」
「…いらない。」
だから最初。
名前も知らない女生徒に手紙を差し出された時も、いつものように取り付く島もなく断った。
偶然にもその女生徒が同居することになった時も、自分には無関係だと思って聞き流した。
振った以上もう関わることもないと他人事のように思っていたはずなのに、実際彼女が越してくると無関係に過ごすことなど到底出来ず、その面倒さに気づいた時には愕然としたほどだ。
彼女―相原琴子はそれほどまでに直樹にまとわりついてきた。
「入江くん」「入江くん」とどんなに冷たくされてもめげずに。
決して直樹の本意ではないのに、渋々ながら彼女の勉強を見てやったり、面倒に付き合わされたことも一度や二度ではない。
なんでも器用に出来る直樹と違い、どんなに一生懸命に取り組んでも何も出来ない琴子をいつからか放って置くこと出来なかったとも言える。
彼女を気に入った母親がうるさいからと言っては見るが、本気になれば拒否できることは知っていた。
それでも付き合ってしまったのはなぜか。
全く直樹とは似ても似つかない彼女だが、彼女が呼ぶ彼の名前はいつもきらきらとしていて愛情がこもっているように見えた。
楽しそうに歌うように。時には恥らうように。
いつだって色がこもっている。
それは声に限ったものではなく、彼女は彼がどんなに突き放してもそのまなざしにはいつも直樹への憧憬にも似た思慕があった。
遠の昔に切り捨てたはずのくだらないもの。
でも信じていたかった小さな世界。
それが理由だったかも知れない。
「やめるっ!もう入江くんのこと好きなのやめる!」
「ふぅん、忘れちゃうんだ。俺のこと。」
涙の浮かぶ瞳は彼女の強がりを彼に伝える。
それでも彼にはなぜだか面白くなかった。
「そーよ!入江くんの性格なんてよーく分かったもの!すぐに忘れて大学でもっとかっこいい人を見つけて…」
男だと知り背を向ける同級生たち。
今はもうそんなことはないと知ってはいても、彼は彼女が起こす迷惑なほどの騒動を知ってしまった。
騒々しくも明るい彼女のいる毎日。
その目が他に向けられるのは面白くない。
「…じゃぁ忘れてみろよ。」
好きなんて気持ちは知らないし、人と関わるなんて、しかもそれが琴子だなんて面倒なことこの上ないと思っていたのに。
気がついたら琴子を壁に押し付けて唇を重ねていた。
母親からの執拗な干渉も直樹にとって本当に鬱陶しかったはずなのに。
それでも心のどこかで分かっていたのかも知れない。
彼女が彼の全てを受け入れ始めていることを。
面倒に思うことも、苛立つことも多いけれど、最近それだけではないことも増えてきた。
琴子を通して他に目を向けることも出来たし、もう少しこのままでいるのもそう悪くはない。
あの日以来始めてそう思えたから。
直樹は触れる唇の柔らかさとその震えに満足した。
なにが書きたかったのか…。
相変わらず会話分も糖分も少ない文です。
4代目一ちゃん、山○くんなのかぁっと思った次第です。
銀狼はだった私ですが、初代一ちゃんは小学校ではやりまくってて毎週見てました。
再放送しないかなぁ。
ということでタイトルはそのまま「Kissからはじまるミステリー」から頂きました☆
それでも我ながらひねくれた性格だと思うようになったのはかつて経験した、周囲の打って変わったような変わり身の速さと、それまでとはあまりに違う冷たい視線のせいに他ならない。
それまでの憧憬や思慕の視線は一夜にして完全に嘲りや中傷のものに変わり、一面でしかものを捕らえない愚かさをまだ幼い直樹に十分すぎるほど教えてくれた。
人間の汚さや冷たさも。
それまではもてはやされていたが、それすらも一瞬にしてなくなると思うと不必要だとしか思えなくなって、直樹はそれまで気づいていた小さな社会を自ら切り捨てた。
それと同時に、直樹の母親に対する認識も代わった。
それまでの直樹にとって母親は自分に一番の愛情を注いでくれる存在だった。
しかし直樹の人間不信の原因が、彼女の暴走癖のある性格に起因する部分があるせいで注がれていた愛情分、間違ったことをされていたように思えて余計に直樹を追い詰めた。
今でも母親の愛情を疑うことこそないが、素直に母親に従ったり内心を打ち明けたりすることもない。
何事にも苦労をしない境遇や才能は直樹から人に対して心を開く機会を完全に奪った。
羨望や嫉妬、向けられる視線の全てが煩わしいと半ば本気で思っていた。
「あ、あの入江くん、これ!」
「…いらない。」
だから最初。
名前も知らない女生徒に手紙を差し出された時も、いつものように取り付く島もなく断った。
偶然にもその女生徒が同居することになった時も、自分には無関係だと思って聞き流した。
振った以上もう関わることもないと他人事のように思っていたはずなのに、実際彼女が越してくると無関係に過ごすことなど到底出来ず、その面倒さに気づいた時には愕然としたほどだ。
彼女―相原琴子はそれほどまでに直樹にまとわりついてきた。
「入江くん」「入江くん」とどんなに冷たくされてもめげずに。
決して直樹の本意ではないのに、渋々ながら彼女の勉強を見てやったり、面倒に付き合わされたことも一度や二度ではない。
なんでも器用に出来る直樹と違い、どんなに一生懸命に取り組んでも何も出来ない琴子をいつからか放って置くこと出来なかったとも言える。
彼女を気に入った母親がうるさいからと言っては見るが、本気になれば拒否できることは知っていた。
それでも付き合ってしまったのはなぜか。
全く直樹とは似ても似つかない彼女だが、彼女が呼ぶ彼の名前はいつもきらきらとしていて愛情がこもっているように見えた。
楽しそうに歌うように。時には恥らうように。
いつだって色がこもっている。
それは声に限ったものではなく、彼女は彼がどんなに突き放してもそのまなざしにはいつも直樹への憧憬にも似た思慕があった。
遠の昔に切り捨てたはずのくだらないもの。
でも信じていたかった小さな世界。
それが理由だったかも知れない。
「やめるっ!もう入江くんのこと好きなのやめる!」
「ふぅん、忘れちゃうんだ。俺のこと。」
涙の浮かぶ瞳は彼女の強がりを彼に伝える。
それでも彼にはなぜだか面白くなかった。
「そーよ!入江くんの性格なんてよーく分かったもの!すぐに忘れて大学でもっとかっこいい人を見つけて…」
男だと知り背を向ける同級生たち。
今はもうそんなことはないと知ってはいても、彼は彼女が起こす迷惑なほどの騒動を知ってしまった。
騒々しくも明るい彼女のいる毎日。
その目が他に向けられるのは面白くない。
「…じゃぁ忘れてみろよ。」
好きなんて気持ちは知らないし、人と関わるなんて、しかもそれが琴子だなんて面倒なことこの上ないと思っていたのに。
気がついたら琴子を壁に押し付けて唇を重ねていた。
母親からの執拗な干渉も直樹にとって本当に鬱陶しかったはずなのに。
それでも心のどこかで分かっていたのかも知れない。
彼女が彼の全てを受け入れ始めていることを。
面倒に思うことも、苛立つことも多いけれど、最近それだけではないことも増えてきた。
琴子を通して他に目を向けることも出来たし、もう少しこのままでいるのもそう悪くはない。
あの日以来始めてそう思えたから。
直樹は触れる唇の柔らかさとその震えに満足した。
なにが書きたかったのか…。
相変わらず会話分も糖分も少ない文です。
4代目一ちゃん、山○くんなのかぁっと思った次第です。
銀狼はだった私ですが、初代一ちゃんは小学校ではやりまくってて毎週見てました。
再放送しないかなぁ。
ということでタイトルはそのまま「Kissからはじまるミステリー」から頂きました☆
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~ Comment ~
>莉久様
こんにちは。
こちらこそ本当にご無沙汰しております。
琴子ちゃんと会ってから、自分でも意味不明な感情に捕らわれるのは本当にミステリーですよね(笑)
随分と懐かしい曲ですが、胸のナイフを静かにぬいてくれ。って歌詞がちょっと入江くんっぽいかなぁっと。
私は逆で初代しか見てないんです。
是非初代見てみてください!
こちらこそ本当にご無沙汰しております。
琴子ちゃんと会ってから、自分でも意味不明な感情に捕らわれるのは本当にミステリーですよね(笑)
随分と懐かしい曲ですが、胸のナイフを静かにぬいてくれ。って歌詞がちょっと入江くんっぽいかなぁっと。
私は逆で初代しか見てないんです。
是非初代見てみてください!
- #37 pukka
- URL
- 2012.08/02 21:27
- ▲EntryTop
ご無沙汰してます
この頃の入江くんにとっては卒業式のキスは確かにミステリーなキスですものね……
それが無意識に自分を忘れると言った琴子を繋ぎとめていたんですよね……
2人の最初のキスですからね、ニヤニヤしますね
金田一は二代目と三代目は見てました
初代は時間がなくてちゃんよ見たことないので近いうちにレンタルしに行こうかなって思いますね
どんな四代目になるのか気になりますね