「長編」
stay with me 【完】
stay with me 4
「琴子ちゃん、綺麗よぉ!」
「えへへ、そうですかぁ?」
大泉会長のパーティー当日。
琴子の頬に仕上げのチークをハート型に入れてやりながら、紀子はうっとりと目を細めた。
憧れの娘との生活を満喫中、と言う所だろう。
大きな目を縁取るまつげは、控えめにつけられたマスカラでくるんと上を向き、白い頬にピンクを基調とした彩りが映える。
紀子が重樹の看病の合間に(嬉々として)選んだドレスは、膝丈までのふんわりとした裾が、下品になりすぎず可愛らしく、年頃の女性として十分な魅力を添えていた。
「きっとお兄ちゃんも琴子ちゃんにめろめろよ!」
「やだ、おばさんたらっ。」
照れて頬を赤くする琴子の肩をそっと抱くと鏡台に向き合うように顔を並べる。
「琴子ちゃんにはお家の事を任せきりにしちゃって…。」
「おばさん…。そんなの当然ですよ!私こそいつもおばさんによくしてもらっちゃって…このドレスも!それなのにいつも失敗ばっかりだし…」
鏡越しに琴子が紀子を伺うと、紀子はいつもの明るい太陽のような笑顔ではない、慈しむ様な笑顔を浮かべていた。
「そんなこと関係ないの。そんなの練習すればきっと上手くなるわ。琴子ちゃんは琴子ちゃんらしくいてくれることが重要なのよ。」
「おばさん。」
優しい言葉に琴子の目に涙の膜が張る。
それがこぼれてしまわない様に紀子はふふっと笑うと軽く琴子の肩を叩いた。
「さ、支度も出来たわ。お兄ちゃんたちも待ってるでしょうし、下に下りましょう。」
「はいっ!」
にっこりと2人の笑顔を鏡が捉えた。
**********
「遅い!支度にいつまでかかってるんだよ!」
ぱたんと扉が閉まる音の後、2人分の足音が聞こえてくると、裕樹が苛立ったようにソファーから立ち上がって階段から廊下へと続く扉を見つめた。
口をへの字にしてすっかり臍を曲げている裕樹をなだめる重樹は今この家にいない。
早くしろよと文句を言い続けている裕樹を一瞥して、直樹もソファに沈み込ませていた腰を持ち上げた。
ある程度時間がかかるものと覚悟はしていたものの、予想を遥かに超えてそろそろ出発時刻も近いとなると、一言言ってやらなくてはと直樹も入ってきた紀子を軽く睨み付ける。
「度量が狭いわね。女性の支度には時間がかかるものなのよ。」
揃ってむっとした表情の息子たちに眉をひそめると、紀子は琴子のほっそりとした手をとり、背後から直樹たちの正面へと引き出した。
普段とは違う可憐な姿に悪態をつき続けていた裕樹の言葉が止まる。
「どう、素敵でしょ。」
言葉を失う息子たちに紀子がふふんと胸をはると、琴子はおずおずと紀子から離れて直樹の所へと向かった。
「い、入江くん、ど、どぉ?」
「…どうって…馬子にも衣装。」
もじもじと恥らう琴子の様子に、ようやく呪縛から解けた直樹の声が素っ気無く応える。
期待と違う言葉に紀子と琴子は大いに不満だったようだが、もう時間だ。
「裕樹、もう出るぞ。外で車が待ってくれてるはずだから先に行って待っててくれ。」
「うん、わかった。」
すでに準備が完了していた裕樹は素直に靴を履き、一足先に屋外へと出て行く。
あれから届いた三人への招待状を重ねて封筒へ収めると直樹はそれを琴子へと差し出す。
「琴子、俺手ぶらだからこれ持っててくれるか。」
「あ、うん!」
透かしの花があしらわれた封筒を琴子は慌てて受け取ると、紀子が用意してくれた小ぶりのパーティーバッグへとしまう。
それを確認して直樹は上着を羽織ると磨かれた革靴へと足を納めた。
「行くぞ。」
「はい!ふふっ、入江くんやっぱりかっこいいね!」
「…はいはい、分かったから。さっきの封筒無くすなよ。」
任せてとバッグを上下に振る琴子を尻目に、車へと足を進める。
その直樹の歩調はいつもよりも若干遅れていた。
予定より大幅に遅れております。
これは相当に長くなりそうな予感がする…。
昔から計画性とは無縁の性質ですので、気長にお付き合い頂けますと嬉しいです。
「えへへ、そうですかぁ?」
大泉会長のパーティー当日。
琴子の頬に仕上げのチークをハート型に入れてやりながら、紀子はうっとりと目を細めた。
憧れの娘との生活を満喫中、と言う所だろう。
大きな目を縁取るまつげは、控えめにつけられたマスカラでくるんと上を向き、白い頬にピンクを基調とした彩りが映える。
紀子が重樹の看病の合間に(嬉々として)選んだドレスは、膝丈までのふんわりとした裾が、下品になりすぎず可愛らしく、年頃の女性として十分な魅力を添えていた。
「きっとお兄ちゃんも琴子ちゃんにめろめろよ!」
「やだ、おばさんたらっ。」
照れて頬を赤くする琴子の肩をそっと抱くと鏡台に向き合うように顔を並べる。
「琴子ちゃんにはお家の事を任せきりにしちゃって…。」
「おばさん…。そんなの当然ですよ!私こそいつもおばさんによくしてもらっちゃって…このドレスも!それなのにいつも失敗ばっかりだし…」
鏡越しに琴子が紀子を伺うと、紀子はいつもの明るい太陽のような笑顔ではない、慈しむ様な笑顔を浮かべていた。
「そんなこと関係ないの。そんなの練習すればきっと上手くなるわ。琴子ちゃんは琴子ちゃんらしくいてくれることが重要なのよ。」
「おばさん。」
優しい言葉に琴子の目に涙の膜が張る。
それがこぼれてしまわない様に紀子はふふっと笑うと軽く琴子の肩を叩いた。
「さ、支度も出来たわ。お兄ちゃんたちも待ってるでしょうし、下に下りましょう。」
「はいっ!」
にっこりと2人の笑顔を鏡が捉えた。
**********
「遅い!支度にいつまでかかってるんだよ!」
ぱたんと扉が閉まる音の後、2人分の足音が聞こえてくると、裕樹が苛立ったようにソファーから立ち上がって階段から廊下へと続く扉を見つめた。
口をへの字にしてすっかり臍を曲げている裕樹をなだめる重樹は今この家にいない。
早くしろよと文句を言い続けている裕樹を一瞥して、直樹もソファに沈み込ませていた腰を持ち上げた。
ある程度時間がかかるものと覚悟はしていたものの、予想を遥かに超えてそろそろ出発時刻も近いとなると、一言言ってやらなくてはと直樹も入ってきた紀子を軽く睨み付ける。
「度量が狭いわね。女性の支度には時間がかかるものなのよ。」
揃ってむっとした表情の息子たちに眉をひそめると、紀子は琴子のほっそりとした手をとり、背後から直樹たちの正面へと引き出した。
普段とは違う可憐な姿に悪態をつき続けていた裕樹の言葉が止まる。
「どう、素敵でしょ。」
言葉を失う息子たちに紀子がふふんと胸をはると、琴子はおずおずと紀子から離れて直樹の所へと向かった。
「い、入江くん、ど、どぉ?」
「…どうって…馬子にも衣装。」
もじもじと恥らう琴子の様子に、ようやく呪縛から解けた直樹の声が素っ気無く応える。
期待と違う言葉に紀子と琴子は大いに不満だったようだが、もう時間だ。
「裕樹、もう出るぞ。外で車が待ってくれてるはずだから先に行って待っててくれ。」
「うん、わかった。」
すでに準備が完了していた裕樹は素直に靴を履き、一足先に屋外へと出て行く。
あれから届いた三人への招待状を重ねて封筒へ収めると直樹はそれを琴子へと差し出す。
「琴子、俺手ぶらだからこれ持っててくれるか。」
「あ、うん!」
透かしの花があしらわれた封筒を琴子は慌てて受け取ると、紀子が用意してくれた小ぶりのパーティーバッグへとしまう。
それを確認して直樹は上着を羽織ると磨かれた革靴へと足を納めた。
「行くぞ。」
「はい!ふふっ、入江くんやっぱりかっこいいね!」
「…はいはい、分かったから。さっきの封筒無くすなよ。」
任せてとバッグを上下に振る琴子を尻目に、車へと足を進める。
その直樹の歩調はいつもよりも若干遅れていた。
予定より大幅に遅れております。
これは相当に長くなりそうな予感がする…。
昔から計画性とは無縁の性質ですので、気長にお付き合い頂けますと嬉しいです。
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