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「中編」
Secret Code

Secret Code 6

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琴子―今はコトリーナを名乗っている―が狙う皿は全部で5枚あった。
その内の4枚の在処はすでに分かっている。
分からない残りの1枚の行方を捜しながら、何とか手元に全ての皿をそろえようと琴子は小柄な体を活かしてここ数日奔走していた。
しかしその努力も空しく入江家では刑事である直樹に見つかり、松本家、高宮家でもそれぞれ家人に見つかってしまった。
今度こそと意気込む、琴子の鼻息は荒く、肩も過剰なほどの力が入っている。

こうなってくると結果は火を見るよりも明らかだ。


***********


「待ちやがれ!」

「やだぁ!なんでぇ!」

情けない声をあげながら琴子は日本家屋の廊下をひた走っていた。
泣きそうになりながらも捕まるわけにはいかないと懸命に走る。
琴子の姿を認めた瞬間追いかけてきた男は、此処の家人なのか、琴子とそう年格好は離れていないように見えた。
長い髪をひとつに縛っているらしく、確認するように振り向く琴子の目に時折男の黒い尻尾が見える。

していることを考えたらいつこんな危険な目にあってもおかしくないとは思っていたし、今までも全て見つかっている。そう考えたら今までは運のいい方に違いない。
それでも今の状況は琴子の覚悟とは違った。
捕まってもいい、捕らわれたい。そう思ったのはこの男ではない。

荒い息をつく琴子の脳裏に一人の男が蘇える。
少し冷たく見えるほど涼しい眼をした長身の、綺麗な顔をした男。

前回は見ても貰えなかったのか、忍び込んだ高宮家に男―直樹の姿はなかった。
急に送りつけたため悪戯だと判断されたのかもしれないが、どうせ捕まるなら直樹にと思った事を琴子は諦めていない。
こりもせずに今回も警視庁の入江直樹宛に手紙を送ってある。
日付も時間も、もちろん場所も。全て伝えてあった。

こんなところで直樹以外の男に捕まってたまるか!そう思って琴子はようやくたどり着いた窓枠に手をかけるとぐっと力を入れて体を窓枠の外へと押し出した。
間一髪で追いかけていた男の手が琴子の背中に伸ばされる。
一瞬背中に触れた感触に、琴子は背中の毛がよだつのを感じながら重力に身を任せた。


**********


「くそっ!どこに行きやがった!」

足音も荒く玄関から回り込んできた男が琴子の出て行った窓の下まで来た。
肩を怒らせながら周りを見回すが、もう琴子の姿はない。
琴子が飛び出していったのは2.5階とも言える、鴨狩家でも一番高い位置にある窓だったため啓太としては一度階段を降りて玄関に回る道を選ぶしかなかった。

すっかり影も形もない小さな背中に、啓太が悔しげに長く伸ばした髪をかき乱す。
舌打ちしながら見上げる窓は高く、よくこんな所からと感心するような場所ではあった。

そしてそれは琴子にとってもそうだった。
急に追いかけ回されたためやむを得ずあの窓から出たが、下見した進入経路とは違い、予定外もいいところだ。
思ったより遠い地面に、懸命に受け身を取ったが間に合わなかった。
下がよくある玉砂利などではなく、庭園風になっていたのが救いで、柔らかい地面に強かに降りた琴子は軽く足をひねってしまった。
どうしようかと困惑するものの、頭上からは絶えず叫び声が聞こえ、すぐにでも追いかけてきそうな雰囲気があった。
かと言って無理を押し通して走ったところですぐ捕まってしまう。
隠れ場所を探して左右を見渡す琴子の口が何かに包まれて後ろの植え込みに引きずり込まれた。


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