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「中編」
Secret Code

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「入江警部、警部宛にお手紙が届いていたんですが…。」

頬を染めた婦人警官がおずおずと白い封筒を直樹に差し出した。
何を期待しているのか、上目遣いで見つめてくる警官はもじもじと身をよじっている。
思わず溜息を吐きそうになりながら、それを飲み込むと直樹はさっさと手紙を受け取った。
80円分の切手が貼られた封筒は軽く、薄い。
表書きにはお世辞にも綺麗とは言えない丸文字で入江直樹様とあった。

「…ありがとう。」

耳の横で軽く振ってみるが、かみそりの類などの心配もないらしく、かさかさと紙の音だけがした。儀礼的に礼を言うと手紙を手にさっさと踵を返す。
自分でも愛想のいい対応とは思えなかったが、制服を着た婦人警官は直樹と会話をしたことで満足したようでキャーッと悲鳴を上げた。
いつものこととはいえ、痛む頭を抑えることは出来ず、直樹は整った眉間に軽く拳を当てると今度こそ溜息を吐いた。

**********

「良!大変よ!早く来てちょうだい!」
「お袋?どうしたんだよ!?」

ヒステリックな女性の悲鳴に琴子は慌てて窓へと走りよった。
窓枠に手をかけて飛び降りると、着地した次の瞬間には敷地から出るために足に力を入れる。
初回から散々失敗してきているが、今回にいたっては目的の大皿を確認することも出来なかった。
早く逃げなくてはと思うものの、どうしても残念な気持ちを拭うことは出来ず、琴子はしょんぼりと肩を落とす。
それでも何とか立ち直り、琴子の身の丈より高いフェンスに手をかけると、小柄な体を活かしてひらりと門を飛び越した。

頭には自信がないが、足の速さと根気だけはあると自負している琴子である。
そのまま走り去れば確実に逃げ切ることが出来るだろう、そう思うものの、琴子は一瞬足を止めて玄関を振り返った。
豪奢な扉の前には誰もいない。
―我慢できずに出した手紙は読んで貰えなかったのか。
どうせ捕まるなら彼に、と決意しただけ琴子にとって寂しくはあったが、こんな失敗を見られるよりはましだったと思うしかない。
それでも期待が裏切られたようで再度肩を落としながら、琴子は長い髪をなびかせて振り切るように高宮と書かれた表札に背を向けた。




軽快な足音が周囲に響く中、琴子の背中が見えなくなったのを見計らって直樹はそっと組んでいた腕を解き壁から離れると高宮家の前に立った。
手には婦人警官から受け取ったあの封筒の中身がある。

「…何を考えてるんだ、あいつは…。」

直樹にしては珍しく、思わず独り言が口をつく。

怪盗コトリーナ

封筒と同じ筆跡で書かれた手紙は、いわゆる予告状だった。
琴子的には中々に可憐な名前に思えたが、直樹にしてみれば下手に手がかりを残すだけだ。
今は直樹が上手く懐柔して被害届すら出されておらず、事件化してさえもいないが、いつもそう上手くいくとは確証がない。
入江家に預けられたあの大皿も結局琴子の手には渡っておらず、もちろん被害届も出していない。
そもそも入江家ではあの大皿に関して被害届を出すつもりは毛頭ない。
今回もだ。
出させないように説得する。
琴子にとっては失敗だろうが、下手に成功されるよりも直樹にとってはその方が都合がよかった。

今頃は不審者相手に対応を話し合っているだろう住人を想像して軽い頭痛を覚えながら、直樹は高宮家のチャイムを押した。
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