「中編」
Secret Code
Secret Code 4
警察!
気になっていた直樹の職業を知れて、琴子は一瞬だが確かに喜んだ。
だがそれもつかの間で、すぐに花が萎れるようにしゅんと首をもたげる。
いくら目的があるからとは言え、琴子にとって警察と言うのは天敵と言ってもいい。
琴子のしていることを知ったら即御用の可能性もある。
自分の両手が手錠で繋がれているところを想像した琴子は、思わずぶんぶんと頭を左右に振った。
せっかく彼のことをいろいろ知って行けたらと思っていた矢先だけに残念ではあるが、琴子は泣かないようにぐっと唇を噛むと植え込みから立ち上がった。
とにかく今はこの場を離れなければならない。
「…まるでロミオとジュリエットみたい…。」
琴子の目に堪えきれなかった涙が一粒光る。
よく知りもしないシェークスピアの作品を想像すると、琴子は松本邸からようやく逃げ出した。
もう気分は完全にジュリエットである。
「どうして入江くんは警察なのかしら…。」
ブツクサと独り言を言いながら琴子は門扉へと走った。
**********
庭園を横切る小さな影に、直樹は思わず頭を抱えそうになった。
それを必死に抑え込むと正面の扉からティーセットの載ったお盆を持った松本姉妹が現れる。
素早く庭に人影がないのを確認し、直樹は不自然にならないようカーテンから離れた。
「お待たせいたしました。」
大きな来客用のソファーを勧められて腰を下ろす。
直樹が座ったことを確認して姉妹もその正面に腰を下ろした。
「それで?警察の方がなんの御用ですか?」
差し出されたお茶を「職務中ですから」とやんわりと断るが、再度妹にも勧められ、直樹はカップを手に湯気を立てる紅茶を一口飲んだ。
妹、綾子が直樹に興味を示すのとは対称的に、姉の裕子は落ち着いて堂々とした佇まいをしている。
「実はこの古美術品を探していまして。」
すっと直樹が取り出したのは一枚の古びた写真だった。
そこには入江家のものによく似た大皿が写っている。
「ああ、これならさっき見ました。よほど価値の分からない泥棒が漁ったらしくて、この皿だけが持ち出されそうに。」
裕子は写真をちらっと一別すると間違いないと直樹に押し返した。
綾子の方も同意して頷いている。
「その皿、見せて頂いても構いませんか?」
「ええ。散らかってますけど。」
どうぞ。と促す裕子に従って、直樹は応接間から松本家の物置へと移動した。
直樹の家にも劣らない物置には本来整然と物が納められていたのだろう。
それが見るも無惨に荒らされている。
もっとも姉妹によれば被害はまるでないらしく、ただただ掃除の手間が増えただけのようだ。
直樹の目的の大皿は物置を出た廊下にあった。
今まさに梱包しようとしたのか、廊下には遺留品とも言える手ぬぐいが落ちている。
この前とはまた違う柄のそれを、直樹は手袋をした手で押収した。
「被害届を出されるおつもりですか?」
「どうしようかしら。不法侵入を放置するのは気味が悪いわ。」
「刑事さん、私泥棒の顔見てるわ。」
逮捕してよと言う綾子にくすっと直樹は笑った。
冷徹そうな刑事の笑顔に一瞬姉妹の言葉が飲まれる。
「物は取り損ね、遺留品を残した上に顔も見られるとあれば余程バカな犯人のようですね。」
「まぁ…。」
言葉を濁す姉妹に直樹は余裕の笑みを浮かべた。
「この件は私に任せて頂けますか?お宅に害がないように警備はつけさせますので。」
有無を言わせない態度でそう言うと、刑事は大皿の写真を表裏撮って松本邸を後にした。
気になっていた直樹の職業を知れて、琴子は一瞬だが確かに喜んだ。
だがそれもつかの間で、すぐに花が萎れるようにしゅんと首をもたげる。
いくら目的があるからとは言え、琴子にとって警察と言うのは天敵と言ってもいい。
琴子のしていることを知ったら即御用の可能性もある。
自分の両手が手錠で繋がれているところを想像した琴子は、思わずぶんぶんと頭を左右に振った。
せっかく彼のことをいろいろ知って行けたらと思っていた矢先だけに残念ではあるが、琴子は泣かないようにぐっと唇を噛むと植え込みから立ち上がった。
とにかく今はこの場を離れなければならない。
「…まるでロミオとジュリエットみたい…。」
琴子の目に堪えきれなかった涙が一粒光る。
よく知りもしないシェークスピアの作品を想像すると、琴子は松本邸からようやく逃げ出した。
もう気分は完全にジュリエットである。
「どうして入江くんは警察なのかしら…。」
ブツクサと独り言を言いながら琴子は門扉へと走った。
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庭園を横切る小さな影に、直樹は思わず頭を抱えそうになった。
それを必死に抑え込むと正面の扉からティーセットの載ったお盆を持った松本姉妹が現れる。
素早く庭に人影がないのを確認し、直樹は不自然にならないようカーテンから離れた。
「お待たせいたしました。」
大きな来客用のソファーを勧められて腰を下ろす。
直樹が座ったことを確認して姉妹もその正面に腰を下ろした。
「それで?警察の方がなんの御用ですか?」
差し出されたお茶を「職務中ですから」とやんわりと断るが、再度妹にも勧められ、直樹はカップを手に湯気を立てる紅茶を一口飲んだ。
妹、綾子が直樹に興味を示すのとは対称的に、姉の裕子は落ち着いて堂々とした佇まいをしている。
「実はこの古美術品を探していまして。」
すっと直樹が取り出したのは一枚の古びた写真だった。
そこには入江家のものによく似た大皿が写っている。
「ああ、これならさっき見ました。よほど価値の分からない泥棒が漁ったらしくて、この皿だけが持ち出されそうに。」
裕子は写真をちらっと一別すると間違いないと直樹に押し返した。
綾子の方も同意して頷いている。
「その皿、見せて頂いても構いませんか?」
「ええ。散らかってますけど。」
どうぞ。と促す裕子に従って、直樹は応接間から松本家の物置へと移動した。
直樹の家にも劣らない物置には本来整然と物が納められていたのだろう。
それが見るも無惨に荒らされている。
もっとも姉妹によれば被害はまるでないらしく、ただただ掃除の手間が増えただけのようだ。
直樹の目的の大皿は物置を出た廊下にあった。
今まさに梱包しようとしたのか、廊下には遺留品とも言える手ぬぐいが落ちている。
この前とはまた違う柄のそれを、直樹は手袋をした手で押収した。
「被害届を出されるおつもりですか?」
「どうしようかしら。不法侵入を放置するのは気味が悪いわ。」
「刑事さん、私泥棒の顔見てるわ。」
逮捕してよと言う綾子にくすっと直樹は笑った。
冷徹そうな刑事の笑顔に一瞬姉妹の言葉が飲まれる。
「物は取り損ね、遺留品を残した上に顔も見られるとあれば余程バカな犯人のようですね。」
「まぁ…。」
言葉を濁す姉妹に直樹は余裕の笑みを浮かべた。
「この件は私に任せて頂けますか?お宅に害がないように警備はつけさせますので。」
有無を言わせない態度でそう言うと、刑事は大皿の写真を表裏撮って松本邸を後にした。
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