「中編」
Secret Code
Secret Code 2
直樹に怒られながら入江家の掃除をして帰宅した女性―相原琴子は、くたくたに疲労した体を引きずりながら帰宅し、自分が手に何も持っていないことに遅ればせながら気づいて愕然とした。
確かに丁寧に梱包した覚えがあるのに。それを手に家を出た覚えがない。
そもそも忍び込んだ家には誰もいないはずだったのに。
思いがけず遭遇した住人、直樹によって計画は失敗してしまったことになる。
「うぅ…せっかく上手くいったと思ったのになぁ…。」
一度は成功したと思ったことを思い出して、琴子はがっかりと肩を落とした。
思わず重たい溜息が落ちる。
気落ちしたまま、更に重くなった気のする体をベッドにうつ伏せに預けた。
枕に頬を摺り寄せるように目を閉じると一度は手にした大皿の感触が蘇える気さえする。
「大体何なの?あの人。まだ歪んでるとかいちいち細かくてやな感じ。…しかも意地悪な言い方!同じ注意するのでも、もっと優しく出来ないのかしら…。」
自分が住居に忍び込んでいたことなどおくびにも出さずごろりと寝返りを打つと、黄色い光を放つ蛍光灯に向けて手を伸ばす。
せっかく初めて成功したと思ったのに、結局大皿を持ち帰れなかったことを思い返すと唇が尖り、不満が自然と口をついた。
琴子が直した美術品や骨董品を逐一チェックしては文句を言った彼は、恐らくあの家の息子だろうと彼女は見当をつけた。
事前の調査で入江家には2人の息子がいることが分かっている。
学生の次男と違い、長男の職業が探りきれずそのままにしてしまった事がまずかったと今になって思う。
「大体何なの?ちょっと背が高いからって見下ろしてくれちゃってさ…。」
琴子自身、だいぶ小柄なせいもあるが彼はとても背が高かった。
琴子が背伸びをして探した棚を何の苦もなく楽々と整理していたのを思い出す。
「いちいち溜息ついちゃって。ちょっと…ううん、かなりカッコいいからって冷たそうだし…。」
すらっとした体躯に小さな頭。
さらさらの髪に切れ長の涼しげな瞳。
薄い唇も形が綺麗で、溜息を吐かれるたびに思わず彼を見てしまった事も琴子は思い出した。
「でも本当にカッコよかったんだよね…。あんな人初めて見たかも。…やっぱりちょっと素敵だったなぁ。」
ちょっとやそっとではお目にかかれないという意味では彼こそ価値のある宝物のように琴子には思えた。
入江さん。歳が近いよう印象を受けたので入江くんだろうか。
目的が失敗してしまった以上、近いうちにもう一度入江家にも行くことになるだろう。
「もう一回、会えたりするかな…?」
会いたいな。
思わずそう呟いて琴子はぷるぷると首を左右に振った。
**********
「ちょっと!不審者よ!」
綾子!っと階下に向けて叫ぶ女性の声に琴子は慌てて窓に向かって走った。
これまた先日の入江家に負けない広い屋敷の広い物置で、隅の方に置かれていた大皿を見つけるまではよかったものの、琴子はどうやらまたミスをしてしまったらしい。
帰宅した姉妹が少しだけ開かれた部屋の扉を不審に思ったようで、ばれる前にとそっと物置を出たまではよかったが、開け放った窓に向かう途中、2階に上がってきた女性と遭遇してしまった。
琴子を見つけた女性の声を聞きながら、琴子は窓枠に手をかける。
背後から2人分の足音が迫ってくるのが聞こえて、琴子は慌てて窓枠に足をかけると確認もせずに下へと飛び降りた。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「お姉ちゃん!警察に連絡しなきゃ!」
窓から身を乗り出しながら叫ぶ姉妹に、琴子は急いで塀を乗り越える。
人通りの少ない道路に面した窓から忍び込んだため、人目につかないはずだったが、塀の向こうには人がいた。
琴子の身の丈を越える塀から飛び降りたため、気づいたときには遅かった。
「どいて!」
琴子が叫んだことで男が頭上を振り仰ぐと、その秀麗な顔が歪む。
「おい!」「きゃー!」
ドスンッと音がして、琴子は眉をひそめた男の上に倒れこんだ。
確かに丁寧に梱包した覚えがあるのに。それを手に家を出た覚えがない。
そもそも忍び込んだ家には誰もいないはずだったのに。
思いがけず遭遇した住人、直樹によって計画は失敗してしまったことになる。
「うぅ…せっかく上手くいったと思ったのになぁ…。」
一度は成功したと思ったことを思い出して、琴子はがっかりと肩を落とした。
思わず重たい溜息が落ちる。
気落ちしたまま、更に重くなった気のする体をベッドにうつ伏せに預けた。
枕に頬を摺り寄せるように目を閉じると一度は手にした大皿の感触が蘇える気さえする。
「大体何なの?あの人。まだ歪んでるとかいちいち細かくてやな感じ。…しかも意地悪な言い方!同じ注意するのでも、もっと優しく出来ないのかしら…。」
自分が住居に忍び込んでいたことなどおくびにも出さずごろりと寝返りを打つと、黄色い光を放つ蛍光灯に向けて手を伸ばす。
せっかく初めて成功したと思ったのに、結局大皿を持ち帰れなかったことを思い返すと唇が尖り、不満が自然と口をついた。
琴子が直した美術品や骨董品を逐一チェックしては文句を言った彼は、恐らくあの家の息子だろうと彼女は見当をつけた。
事前の調査で入江家には2人の息子がいることが分かっている。
学生の次男と違い、長男の職業が探りきれずそのままにしてしまった事がまずかったと今になって思う。
「大体何なの?ちょっと背が高いからって見下ろしてくれちゃってさ…。」
琴子自身、だいぶ小柄なせいもあるが彼はとても背が高かった。
琴子が背伸びをして探した棚を何の苦もなく楽々と整理していたのを思い出す。
「いちいち溜息ついちゃって。ちょっと…ううん、かなりカッコいいからって冷たそうだし…。」
すらっとした体躯に小さな頭。
さらさらの髪に切れ長の涼しげな瞳。
薄い唇も形が綺麗で、溜息を吐かれるたびに思わず彼を見てしまった事も琴子は思い出した。
「でも本当にカッコよかったんだよね…。あんな人初めて見たかも。…やっぱりちょっと素敵だったなぁ。」
ちょっとやそっとではお目にかかれないという意味では彼こそ価値のある宝物のように琴子には思えた。
入江さん。歳が近いよう印象を受けたので入江くんだろうか。
目的が失敗してしまった以上、近いうちにもう一度入江家にも行くことになるだろう。
「もう一回、会えたりするかな…?」
会いたいな。
思わずそう呟いて琴子はぷるぷると首を左右に振った。
**********
「ちょっと!不審者よ!」
綾子!っと階下に向けて叫ぶ女性の声に琴子は慌てて窓に向かって走った。
これまた先日の入江家に負けない広い屋敷の広い物置で、隅の方に置かれていた大皿を見つけるまではよかったものの、琴子はどうやらまたミスをしてしまったらしい。
帰宅した姉妹が少しだけ開かれた部屋の扉を不審に思ったようで、ばれる前にとそっと物置を出たまではよかったが、開け放った窓に向かう途中、2階に上がってきた女性と遭遇してしまった。
琴子を見つけた女性の声を聞きながら、琴子は窓枠に手をかける。
背後から2人分の足音が迫ってくるのが聞こえて、琴子は慌てて窓枠に足をかけると確認もせずに下へと飛び降りた。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「お姉ちゃん!警察に連絡しなきゃ!」
窓から身を乗り出しながら叫ぶ姉妹に、琴子は急いで塀を乗り越える。
人通りの少ない道路に面した窓から忍び込んだため、人目につかないはずだったが、塀の向こうには人がいた。
琴子の身の丈を越える塀から飛び降りたため、気づいたときには遅かった。
「どいて!」
琴子が叫んだことで男が頭上を振り仰ぐと、その秀麗な顔が歪む。
「おい!」「きゃー!」
ドスンッと音がして、琴子は眉をひそめた男の上に倒れこんだ。
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