「長編」
Baby Love
Baby Love 4
「「琴子、おはよう!」」
「「琴子、おはよう!」」
「あ、理美、じん子。おはよう!」
背後から聞き慣れた声が聞こえて、琴子はくるりと髪を揺らして振り向いた。
親友たちに手を振るその顔には今日も眩しいほどの笑顔が輝いている。
直樹と琴子の結婚騒ぎも一段落し、琴子は誰が見ても分かるほど毎日ご機嫌だった。
それまでの落ち込みようが嘘のように晴れやかで、鼻歌さえ歌い出しそうな琴子。
そんな彼女に、最初は一緒に喜んでくれていた理美やじん子もついには呆れ気味だ。
「入江くんと随分上手くいってるみたいじゃない。」
「ほんとほんと。」
琴子の隣まで追いつくと早速幸せいっぱいの彼女に嫌味の一つでも言ってやろうと理美が意地の悪い笑みを浮かべる。それに素早くじん子が同調した。
今までの琴子なら恥ずかしそうにしたり、そんなんじゃないとむくれてみたり。
片思いゆえの複雑さが滲んでいたものだが、今では本当にそんな必要もないらしい。
「そうなの!入江くんたら、入江くんたらね!遅くに疲れて帰ってくるのに、帰って来れない事もあるのに、帰ってきたら絶対あたしにね…、キスしてくれるの!」
半ば白い目で見られていることにも気づかず、琴子はキャーッと頬を染めながら自分を抱きしめるようにしてくねくねと身をよじった。
平然とのろける琴子に理美たちはふぅっと軽く溜息をついて、笑う。
毎日続くのろけには確かに呆れもある。あてられている感も否めないが、理美もじん子も琴子が幸せになるのを疎ましく思っているわけではない。
まして相手があの直樹なのだから、普通の男性のように彼女に接する所に興味がないと言っては嘘になる。
結局いつものように浮かれる琴子の両脇を陣取って顔を寄せた。
「あの入江くんが!嘘みたい!」
「本当!琴子と付き合ってるってだけでも驚きなのにね。」
「あたしも最初は夢じゃないかと思ったけど、入江くん、あたしには負けたって!」
「あー、まぁあんたのアピールは凄かったもんね。」
「押して押して。…人間出来ないことはないって感じ。」
「本当。…もう好きって言えないのかと思ってたから、今本当に幸せ。…あたしこんなに幸せでいいのかな…。いつか罰が当たっちゃうかも。」
金之助たちを思ってか少しだけ曇る琴子の肩に、勢いよく理美の腕が回る。
その衝撃と重みに琴子は一歩たたらを踏んだ。
「何言ってるのよ!入江くんもあんたを選んだんだから同罪でしょ。」
「そうよ。金ちゃんだってあんたが入江くんしか見えてないの最初から分かってたんだし、大人しくのろけてなさい。」
元気のない琴子の顔はこの夏で一生分見た。だから笑顔が見れるのであれば金之助でもいいと本気で思っていた事に間違いはない。
だから直樹の事は諦めるように金之助との関係に発破をかけることもした。
でもこの笑顔はきっと直樹にしか引き出せなかったから。
そこに全ての答えを見出して二人は更に普段の直樹を琴子から聞き出そうと琴子の脇を両側からつついた。
「そうそう。あたしたちだって興味があるんだからもっと入江くんとのこと教えなさいよ!」
「やだもう、くすぐったい!」
キャッキャッと声を上げながら琴子たちは講義が行われる教室へと入る。
講義室の一番後ろ。
いつもの指定席に陣取ると、三人は琴子を真ん中に席に着いた。
途端に琴子が大きめのトートバッグから数冊のノートと教科書を出す。
琴子は勉強こそ出来ないが、サボったりすることはあまりない。
いつだって一生懸命だからこそ、彼女の魅力が生かされるのだろう。
目を細めて琴子を見守りながら理美たちも琴子に習って教科書を出した。
大学を卒業すれば琴子も結婚するかもしれない。
高校から続く片思いを成就して幸せに。
そうなるとまた少しずつ変わるものもあるだろうが、こうして賑やかながら愛おしい日常は続いていく。そう自然に思えた。
大きな可動式の黒板。
それを背に立つ教授の姿に2人の意識が向く。
琴子の視線もまっすぐに前を向いていたが、見ていたのは黒板の前に立つ教授ではなく、少し手前の席だった。
「「琴子、おはよう!」」
「あ、理美、じん子。おはよう!」
背後から聞き慣れた声が聞こえて、琴子はくるりと髪を揺らして振り向いた。
親友たちに手を振るその顔には今日も眩しいほどの笑顔が輝いている。
直樹と琴子の結婚騒ぎも一段落し、琴子は誰が見ても分かるほど毎日ご機嫌だった。
それまでの落ち込みようが嘘のように晴れやかで、鼻歌さえ歌い出しそうな琴子。
そんな彼女に、最初は一緒に喜んでくれていた理美やじん子もついには呆れ気味だ。
「入江くんと随分上手くいってるみたいじゃない。」
「ほんとほんと。」
琴子の隣まで追いつくと早速幸せいっぱいの彼女に嫌味の一つでも言ってやろうと理美が意地の悪い笑みを浮かべる。それに素早くじん子が同調した。
今までの琴子なら恥ずかしそうにしたり、そんなんじゃないとむくれてみたり。
片思いゆえの複雑さが滲んでいたものだが、今では本当にそんな必要もないらしい。
「そうなの!入江くんたら、入江くんたらね!遅くに疲れて帰ってくるのに、帰って来れない事もあるのに、帰ってきたら絶対あたしにね…、キスしてくれるの!」
半ば白い目で見られていることにも気づかず、琴子はキャーッと頬を染めながら自分を抱きしめるようにしてくねくねと身をよじった。
平然とのろける琴子に理美たちはふぅっと軽く溜息をついて、笑う。
毎日続くのろけには確かに呆れもある。あてられている感も否めないが、理美もじん子も琴子が幸せになるのを疎ましく思っているわけではない。
まして相手があの直樹なのだから、普通の男性のように彼女に接する所に興味がないと言っては嘘になる。
結局いつものように浮かれる琴子の両脇を陣取って顔を寄せた。
「あの入江くんが!嘘みたい!」
「本当!琴子と付き合ってるってだけでも驚きなのにね。」
「あたしも最初は夢じゃないかと思ったけど、入江くん、あたしには負けたって!」
「あー、まぁあんたのアピールは凄かったもんね。」
「押して押して。…人間出来ないことはないって感じ。」
「本当。…もう好きって言えないのかと思ってたから、今本当に幸せ。…あたしこんなに幸せでいいのかな…。いつか罰が当たっちゃうかも。」
金之助たちを思ってか少しだけ曇る琴子の肩に、勢いよく理美の腕が回る。
その衝撃と重みに琴子は一歩たたらを踏んだ。
「何言ってるのよ!入江くんもあんたを選んだんだから同罪でしょ。」
「そうよ。金ちゃんだってあんたが入江くんしか見えてないの最初から分かってたんだし、大人しくのろけてなさい。」
元気のない琴子の顔はこの夏で一生分見た。だから笑顔が見れるのであれば金之助でもいいと本気で思っていた事に間違いはない。
だから直樹の事は諦めるように金之助との関係に発破をかけることもした。
でもこの笑顔はきっと直樹にしか引き出せなかったから。
そこに全ての答えを見出して二人は更に普段の直樹を琴子から聞き出そうと琴子の脇を両側からつついた。
「そうそう。あたしたちだって興味があるんだからもっと入江くんとのこと教えなさいよ!」
「やだもう、くすぐったい!」
キャッキャッと声を上げながら琴子たちは講義が行われる教室へと入る。
講義室の一番後ろ。
いつもの指定席に陣取ると、三人は琴子を真ん中に席に着いた。
途端に琴子が大きめのトートバッグから数冊のノートと教科書を出す。
琴子は勉強こそ出来ないが、サボったりすることはあまりない。
いつだって一生懸命だからこそ、彼女の魅力が生かされるのだろう。
目を細めて琴子を見守りながら理美たちも琴子に習って教科書を出した。
大学を卒業すれば琴子も結婚するかもしれない。
高校から続く片思いを成就して幸せに。
そうなるとまた少しずつ変わるものもあるだろうが、こうして賑やかながら愛おしい日常は続いていく。そう自然に思えた。
大きな可動式の黒板。
それを背に立つ教授の姿に2人の意識が向く。
琴子の視線もまっすぐに前を向いていたが、見ていたのは黒板の前に立つ教授ではなく、少し手前の席だった。
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