「長編」
Baby Love
Baby Love 3
コンコン。
夕食後、直樹が部屋に戻ってからきっかり10分。
食事中からそわそわと直樹を気にしていたのによく我慢したものだと思いながら、直樹は「どうぞ」と声をかけた。
そっと音を立てないように開かれた扉から栗色の髪が覗く。
琴子にしては妙にしおらしくおずおずと顔を出すので、直樹は入室を促すように顎で軽く中を示した。
とたんに顔を輝かせた琴子は開けた扉の隙間から踊るように直樹の部屋に入ってくる。
「お邪魔します。」
同居しだしてからもう3年以上にもなるが、琴子が直樹の部屋に来ることは滅多になかった。
本当はもっと来たかったのかもしれないが、そうそう用事もなければさすがの琴子も男性の部屋に乗り込んでくることはない。
半ば不本意ながらも直樹が琴子の勉強を見てやるときはほとんどが琴子の部屋だったし、食事や風呂で呼びに来るぐらいの用事でしかなければ扉の手前で事足りてしまう。
本人が在室中に部屋に招かれるのは初めてで、本人の趣味を反映したシンプルな内装にしっくりと馴染む直樹を見て琴子はもじもじと手を組み合わせた。
几帳面な直樹らしく、綺麗に整理整頓された部屋は無駄がなく、椅子は直樹が座る勉強机だけ、床はフローリングでクッションの類もない。
「…とりあえずそこ座れよ。」
「あ、う、うん。そうね、ありがとう。」
どうしようかと立ち尽くす琴子を見かねて、直樹は「そこ」とシンプルな藍色のシーツがかけられたベッドを指差した。
頬を赤くしながらベッドの足元にそっと琴子が腰掛けると、その華奢な体を受け止めてベッドが柔らかく沈む。
自分のベッドに据わる琴子が嫌に小さく見えて直樹の目が密かに細められる。
「入江くん、話ってなぁに?」
直樹のプライベート空間が落ち着かないのか、ぱたぱたと足を動かしながら尋ねる琴子の声は甘い。
くりくりとした大きな目でじっと見つめてくる琴子を見て、直樹はそっと足を組んだ。
「ああ。…俺、結婚は琴子が大学を卒業して、会社を立て直してからだって言ったよな。」
「うん。沙穂子さんにも納得して貰わないとって言ってたよね?」
冷静な直樹に琴子が頷く。
直樹が琴子と結婚したいと言ってくれるとは思っていなかったからこそ、あの日のことは逆上せてしまった琴子の頭にも鮮明に残っていた。
何が言いたいのかと首を傾げる琴子に今度は直樹が頷く。
「…お前、お袋から何も聞いてないのか?」
「おばさんから?…特に聞いてないけど、何の話?」
「お袋が騒ぐのはある程度覚悟してたけど、再来週にも式を挙げさせようとしてたみたいだぜ?あの行動力はどこからくるんだかな。」
「再来週って…。何のお式?」
余りに急な話と直樹の端的な説明に琴子は話が上手く飲み込めず困ったように眉を寄せた。
向かい合う直樹はむっと眉を寄せていて、琴子は居心地の悪さにますます肩をすぼめて小さくなる。
それに気がついたのか、直樹は苛立ちを散らせるように溜息をついて眉間をくつろげた。
「俺たちの結婚式だよ。」
「けっ、結婚式!?」
結婚式と聞いて顔を赤くさせる琴子に釘を刺すように直樹は琴子を見た。
「まぁ事前に気づいたから中止させたけど…。」
「中止」と途端に琴子の顔が今度は青く陰る。
落ち込みだし俯く琴子に、直樹は苦笑しながら足を解くとやおら立ち上がった。
琴子との間に置いていた距離をつめてすぐ隣に腰掛けると、華奢な肩に触れた直樹の熱にびくんと小さく琴子が震える。
それに気づきながら直樹はそっと琴子の肩に腕を回した。
「何?学生結婚したかった?」
内心ばくばくなのか顔を限界まで赤く染めながらも琴子は直樹を見ようとはしない。
それどころか無断で中止させたことが不満なのか、覗き込んだ琴子の唇はつんと尖っていて直樹は苦笑した。
ぷぅと琴子の頬が空気を溜め込む。
「そ、そんなんじゃないけど。」
「そうか?不満って顔に書いてるけど?」
「本当にそんなんじゃないよ。…ただ入江くんに怒られたならおばさんが可哀想だと思って…。」
「可哀想なわけあるか。俺はおじさんのこともあるし、自分たちで自立してから、と思ってるんだよ。なのに余計なことを…。」
「おばさんも心配してくれてるんだよ。」
「……なにを?お前も俺が心変わりすると思うわけ?」
ずいっと直樹が顔を寄せると琴子の顔が少し引くが、直樹に肩を抱かれているせいで思うように距離は取れない。
仕方なく琴子は視線だけを直樹から外した。
「意地悪…。」
ぼそりと小さな声が琴子のピンクの唇から落ちる。
「でも好きなんだろ?」
にっこりと笑ってやると琴子がおずおずと直樹を見た。
じっと見つめていると堪えきれなくなったのか琴子の腕が直樹の首に回る。
「うん、…大好き。」
甘い響きに満足して直樹は琴子の唇を塞いだ。
ちょっとお久しぶりです。
ほぼ書き終わっていたんですが、更新する気力がありませんでした。
やっと5月が終わって一安心です。
疲れていたのか妄想がおかしな方向に行ってしまって…。
原作まるで無視の芸能物とか…。
まぁ今も原作からの分岐ものでそう沿っているわけじゃないんですが、もっと暴走するかもです。
アクセス数も50,000に近づいてきていて、何か出来ないかなっとは思うのですが。
なにも形にならず。
ぐだぐだサイトですが、いつも暖かい拍手ありがとうございます。
夕食後、直樹が部屋に戻ってからきっかり10分。
食事中からそわそわと直樹を気にしていたのによく我慢したものだと思いながら、直樹は「どうぞ」と声をかけた。
そっと音を立てないように開かれた扉から栗色の髪が覗く。
琴子にしては妙にしおらしくおずおずと顔を出すので、直樹は入室を促すように顎で軽く中を示した。
とたんに顔を輝かせた琴子は開けた扉の隙間から踊るように直樹の部屋に入ってくる。
「お邪魔します。」
同居しだしてからもう3年以上にもなるが、琴子が直樹の部屋に来ることは滅多になかった。
本当はもっと来たかったのかもしれないが、そうそう用事もなければさすがの琴子も男性の部屋に乗り込んでくることはない。
半ば不本意ながらも直樹が琴子の勉強を見てやるときはほとんどが琴子の部屋だったし、食事や風呂で呼びに来るぐらいの用事でしかなければ扉の手前で事足りてしまう。
本人が在室中に部屋に招かれるのは初めてで、本人の趣味を反映したシンプルな内装にしっくりと馴染む直樹を見て琴子はもじもじと手を組み合わせた。
几帳面な直樹らしく、綺麗に整理整頓された部屋は無駄がなく、椅子は直樹が座る勉強机だけ、床はフローリングでクッションの類もない。
「…とりあえずそこ座れよ。」
「あ、う、うん。そうね、ありがとう。」
どうしようかと立ち尽くす琴子を見かねて、直樹は「そこ」とシンプルな藍色のシーツがかけられたベッドを指差した。
頬を赤くしながらベッドの足元にそっと琴子が腰掛けると、その華奢な体を受け止めてベッドが柔らかく沈む。
自分のベッドに据わる琴子が嫌に小さく見えて直樹の目が密かに細められる。
「入江くん、話ってなぁに?」
直樹のプライベート空間が落ち着かないのか、ぱたぱたと足を動かしながら尋ねる琴子の声は甘い。
くりくりとした大きな目でじっと見つめてくる琴子を見て、直樹はそっと足を組んだ。
「ああ。…俺、結婚は琴子が大学を卒業して、会社を立て直してからだって言ったよな。」
「うん。沙穂子さんにも納得して貰わないとって言ってたよね?」
冷静な直樹に琴子が頷く。
直樹が琴子と結婚したいと言ってくれるとは思っていなかったからこそ、あの日のことは逆上せてしまった琴子の頭にも鮮明に残っていた。
何が言いたいのかと首を傾げる琴子に今度は直樹が頷く。
「…お前、お袋から何も聞いてないのか?」
「おばさんから?…特に聞いてないけど、何の話?」
「お袋が騒ぐのはある程度覚悟してたけど、再来週にも式を挙げさせようとしてたみたいだぜ?あの行動力はどこからくるんだかな。」
「再来週って…。何のお式?」
余りに急な話と直樹の端的な説明に琴子は話が上手く飲み込めず困ったように眉を寄せた。
向かい合う直樹はむっと眉を寄せていて、琴子は居心地の悪さにますます肩をすぼめて小さくなる。
それに気がついたのか、直樹は苛立ちを散らせるように溜息をついて眉間をくつろげた。
「俺たちの結婚式だよ。」
「けっ、結婚式!?」
結婚式と聞いて顔を赤くさせる琴子に釘を刺すように直樹は琴子を見た。
「まぁ事前に気づいたから中止させたけど…。」
「中止」と途端に琴子の顔が今度は青く陰る。
落ち込みだし俯く琴子に、直樹は苦笑しながら足を解くとやおら立ち上がった。
琴子との間に置いていた距離をつめてすぐ隣に腰掛けると、華奢な肩に触れた直樹の熱にびくんと小さく琴子が震える。
それに気づきながら直樹はそっと琴子の肩に腕を回した。
「何?学生結婚したかった?」
内心ばくばくなのか顔を限界まで赤く染めながらも琴子は直樹を見ようとはしない。
それどころか無断で中止させたことが不満なのか、覗き込んだ琴子の唇はつんと尖っていて直樹は苦笑した。
ぷぅと琴子の頬が空気を溜め込む。
「そ、そんなんじゃないけど。」
「そうか?不満って顔に書いてるけど?」
「本当にそんなんじゃないよ。…ただ入江くんに怒られたならおばさんが可哀想だと思って…。」
「可哀想なわけあるか。俺はおじさんのこともあるし、自分たちで自立してから、と思ってるんだよ。なのに余計なことを…。」
「おばさんも心配してくれてるんだよ。」
「……なにを?お前も俺が心変わりすると思うわけ?」
ずいっと直樹が顔を寄せると琴子の顔が少し引くが、直樹に肩を抱かれているせいで思うように距離は取れない。
仕方なく琴子は視線だけを直樹から外した。
「意地悪…。」
ぼそりと小さな声が琴子のピンクの唇から落ちる。
「でも好きなんだろ?」
にっこりと笑ってやると琴子がおずおずと直樹を見た。
じっと見つめていると堪えきれなくなったのか琴子の腕が直樹の首に回る。
「うん、…大好き。」
甘い響きに満足して直樹は琴子の唇を塞いだ。
ちょっとお久しぶりです。
ほぼ書き終わっていたんですが、更新する気力がありませんでした。
やっと5月が終わって一安心です。
疲れていたのか妄想がおかしな方向に行ってしまって…。
原作まるで無視の芸能物とか…。
まぁ今も原作からの分岐ものでそう沿っているわけじゃないんですが、もっと暴走するかもです。
アクセス数も50,000に近づいてきていて、何か出来ないかなっとは思うのですが。
なにも形にならず。
ぐだぐだサイトですが、いつも暖かい拍手ありがとうございます。
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~ Comment ~
>莉久様
こんばんは。
お久しぶりです。
結婚も素敵ですけど、恋人期間や婚約期間ってその間しかなくて楽しそうですよね。
ちょっと一波乱ある予定なんですけど、楽しんで頂けると嬉しいです。
それもいいですよね!
いつか実行しようと思います(笑)
最近訪問させて頂いているんですが、コメント出来てなくて申し訳ないです(><)
お久しぶりです。
結婚も素敵ですけど、恋人期間や婚約期間ってその間しかなくて楽しそうですよね。
ちょっと一波乱ある予定なんですけど、楽しんで頂けると嬉しいです。
それもいいですよね!
いつか実行しようと思います(笑)
最近訪問させて頂いているんですが、コメント出来てなくて申し訳ないです(><)
- #29 pukka
- URL
- 2012.06/05 22:54
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こんにちわ
新連載スタートされたんですね
しかも大泉家関係が終わり婚約時代の初々しい2人なんですね
紀子ママの暴走を止めた入江くん、そして琴子ちゃんとの結婚がどうなるか楽しみにしてますね
芸能界ものですか?
敏腕マネージャー入江×新人女優とか良いですね♪
それではまた来ます