「中編」
Secret Code
Secret Code 1
その日は入江直樹にとって久しぶりの休日だった。
滅多にないことだけに、しっかり体を休めようと大きなソファーにもたれて趣味の読書を始める。
父、重樹と弟、裕樹はもう出かけており、母の紀子も習い事で家を空けていた。
おかげで家の中は物音ひとつしないほど静まり返っている。
直樹は一人でいるときにテレビをつけることはなく、音楽も聴かない。
ただただ本とコーヒーを楽しみながら爽やかな昼下がりの陽気を全身に浴びるのがいつもの直樹の休日だった。
今日も例に漏れず。聞こえるのは直樹がページを手繰る音とカップとソーサーが立てる小さな音だけ、のはずだった。
がたん。
静かな空間に明らかに異質な音が混じる。
物が崩れたような音だったが、紀子はいつも綺麗に整理整頓していたため、何かが崩れ落ちるようなことはあまりない。
施錠もしっかりしていたはずだが、いつも平日のこの時間入江家には人がいないことが多い。
もしもと言うこともあり、様子だけでも見ておこうと直樹は立ち上がると足音を立てずに物置のほうに向かった。
**********
「ああ、もう…やっちゃった。」
斜めに崩れてしまった絵画に、室内を探索していた女性は一見して幼く見える眉を寄せた。
大きなこの邸宅は物置も広く、探し物は中々見当たらない。
とりあえず元に戻しておこうと彼女は丁寧に一枚ずつ整頓を始めた。
まっすぐに並べているつもりが上に向かうにつれて徐々にずれ、がたがたになっている。
「うぅ…。…まぁいいか。」
しばらくそれを前に腕を組むも深く考えることはしないらしい。
溜息ひとつで気を取り直して埃ひとつ落ちていない物置を這うように探索を再開する。
ごそごそと奥まで一通り見ると、体を起こし、屈んでいたため痛む腰を軽くひねった。
ふう。疲れを誤魔化すように軽く一息。
顔を上げた女性は壁の一点を見て目を見開いた。
「あ、あったぁ!」
山のように詰まれた美術品。
それらには目もくれず、彼女は一枚の古びたお皿を手に取る。
見つけてみれば目的の物は物置の一番目立つ場所に置かれていた。にも拘らず見つけられなかったのは恥ずかしくもあったが、どうせ今は誰もいない。
目標は無事達成できたのだからと大きなお皿をいそいそと持ってきた風呂敷で包む。
割れないように丁重に。
思わずふふっと笑みが彼女のピンク色の唇からこぼれた。
目的を終えて見回してみれば彼女が来る前と来た後では漁った後が丸分かりだ。
「散らかしてごめんなさい。」
ぺこりと頭を下げて帰るための支度を始める。
その時だった。
「本当にな。」彼女の背後から不機嫌に潜められた声が聞こえて、彼女は飛び上がらんばかりに肩を跳ねさせた。
「派手にやりやがって…。」
誰もいないはずだったのに、住民がいたらしい。
こわごわと振り向いた彼女の目に綺麗な顔をした男が腕を組んで立っているのが写った。
「あ、あの!」
「いいからきちんと片付けろ。」
よほど見逃しがたかったのか、そう言いながら近づいてきた男は彼女の背後にあるがたついた絵画をまっすぐに整えた。
ぼーっとその光景を眺めているとぎんっと強く睨まれる。
「ほら、早くしろよ!」
「は、はい!」
強い口調に思わず背筋を伸ばして返事をすると、彼女はしきりに首を傾げながら怒られないように片づけを始めた。
時折、彼女が片付けたところに男の注意が飛ぶ。
いつの間にか明るかった日差しがかげる頃、彼女はようやく全てを片付け終え、男からも許しを貰った。
だるくなってしまった腕を揉みながら頭を下げると呼び止められないようにそそくさときびすを返す。
入ってきたときと同様に、二階から出ようと階段に足をかけると、男がすっと長い指で玄関を指差した。
「そこから出ろ。」
「ど、どうも。」
指示通り頭を下げて玄関の扉を開く。
出て行く彼女は足音ひとつ立てることはなかった。
物置は男の記憶どおり綺麗に整理され、誰かがいた形跡はない。
一人になった物置で、男―直樹は風呂敷に包まれた大皿を取り出すと、曇りひとつないのを確かめて元の位置へと戻した。
忘れられた風呂敷をジーンズのポケットにねじ込む。
その口元には楽しげな笑みさえ浮かんでいた。
二つ以上の連載は抱えない、と思っておりましたが、違うのものの方が進んでしまいました。
混同しないようにこっちを先に終わらせてしまおうかと思っております。
原作を完全無視なので、軽い気持ちで読んで頂けるとありがたいです。
…パスはいらないと思いますが、そのうち限定になっていたらすみません。
滅多にないことだけに、しっかり体を休めようと大きなソファーにもたれて趣味の読書を始める。
父、重樹と弟、裕樹はもう出かけており、母の紀子も習い事で家を空けていた。
おかげで家の中は物音ひとつしないほど静まり返っている。
直樹は一人でいるときにテレビをつけることはなく、音楽も聴かない。
ただただ本とコーヒーを楽しみながら爽やかな昼下がりの陽気を全身に浴びるのがいつもの直樹の休日だった。
今日も例に漏れず。聞こえるのは直樹がページを手繰る音とカップとソーサーが立てる小さな音だけ、のはずだった。
がたん。
静かな空間に明らかに異質な音が混じる。
物が崩れたような音だったが、紀子はいつも綺麗に整理整頓していたため、何かが崩れ落ちるようなことはあまりない。
施錠もしっかりしていたはずだが、いつも平日のこの時間入江家には人がいないことが多い。
もしもと言うこともあり、様子だけでも見ておこうと直樹は立ち上がると足音を立てずに物置のほうに向かった。
**********
「ああ、もう…やっちゃった。」
斜めに崩れてしまった絵画に、室内を探索していた女性は一見して幼く見える眉を寄せた。
大きなこの邸宅は物置も広く、探し物は中々見当たらない。
とりあえず元に戻しておこうと彼女は丁寧に一枚ずつ整頓を始めた。
まっすぐに並べているつもりが上に向かうにつれて徐々にずれ、がたがたになっている。
「うぅ…。…まぁいいか。」
しばらくそれを前に腕を組むも深く考えることはしないらしい。
溜息ひとつで気を取り直して埃ひとつ落ちていない物置を這うように探索を再開する。
ごそごそと奥まで一通り見ると、体を起こし、屈んでいたため痛む腰を軽くひねった。
ふう。疲れを誤魔化すように軽く一息。
顔を上げた女性は壁の一点を見て目を見開いた。
「あ、あったぁ!」
山のように詰まれた美術品。
それらには目もくれず、彼女は一枚の古びたお皿を手に取る。
見つけてみれば目的の物は物置の一番目立つ場所に置かれていた。にも拘らず見つけられなかったのは恥ずかしくもあったが、どうせ今は誰もいない。
目標は無事達成できたのだからと大きなお皿をいそいそと持ってきた風呂敷で包む。
割れないように丁重に。
思わずふふっと笑みが彼女のピンク色の唇からこぼれた。
目的を終えて見回してみれば彼女が来る前と来た後では漁った後が丸分かりだ。
「散らかしてごめんなさい。」
ぺこりと頭を下げて帰るための支度を始める。
その時だった。
「本当にな。」彼女の背後から不機嫌に潜められた声が聞こえて、彼女は飛び上がらんばかりに肩を跳ねさせた。
「派手にやりやがって…。」
誰もいないはずだったのに、住民がいたらしい。
こわごわと振り向いた彼女の目に綺麗な顔をした男が腕を組んで立っているのが写った。
「あ、あの!」
「いいからきちんと片付けろ。」
よほど見逃しがたかったのか、そう言いながら近づいてきた男は彼女の背後にあるがたついた絵画をまっすぐに整えた。
ぼーっとその光景を眺めているとぎんっと強く睨まれる。
「ほら、早くしろよ!」
「は、はい!」
強い口調に思わず背筋を伸ばして返事をすると、彼女はしきりに首を傾げながら怒られないように片づけを始めた。
時折、彼女が片付けたところに男の注意が飛ぶ。
いつの間にか明るかった日差しがかげる頃、彼女はようやく全てを片付け終え、男からも許しを貰った。
だるくなってしまった腕を揉みながら頭を下げると呼び止められないようにそそくさときびすを返す。
入ってきたときと同様に、二階から出ようと階段に足をかけると、男がすっと長い指で玄関を指差した。
「そこから出ろ。」
「ど、どうも。」
指示通り頭を下げて玄関の扉を開く。
出て行く彼女は足音ひとつ立てることはなかった。
物置は男の記憶どおり綺麗に整理され、誰かがいた形跡はない。
一人になった物置で、男―直樹は風呂敷に包まれた大皿を取り出すと、曇りひとつないのを確かめて元の位置へと戻した。
忘れられた風呂敷をジーンズのポケットにねじ込む。
その口元には楽しげな笑みさえ浮かんでいた。
二つ以上の連載は抱えない、と思っておりましたが、違うのものの方が進んでしまいました。
混同しないようにこっちを先に終わらせてしまおうかと思っております。
原作を完全無視なので、軽い気持ちで読んで頂けるとありがたいです。
…パスはいらないと思いますが、そのうち限定になっていたらすみません。
- 関連記事
-
- Secret Code 3
- Secret Code 2
- Secret Code 1
スポンサーサイト
~ Comment ~