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「中編」
愛のかたまり

4分47秒の恋

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4分47秒の恋。

ふんふんふーん。
琴子が微笑みながら鼻歌を歌っている。
やけに機嫌がいいらしく、雑誌をめくる指すら楽しげに見える。
琴子が愛読して定期購読までしている女性誌。
珍しく音楽を聞いている様で、ピアスホールも空けていない小さな耳からイヤフォンのコードが延びている。

「琴子。」

声をかけてみたが思ったより大きな音で聞いているのか、琴子が俺の声に応えることはなかった。
いつも俺が何をしようと関係なくまとわりついてくるくせに、無視されている様でなんとなく面白くない。

「琴子。」

語気を強くしてもう一度。
それでも琴子が振り向くことはなかった。

ダブルベッドにうつぶせに寝転んで足をばたつかせながら琴子の小さな唇が動いて生涯最後の愛を歌う。
どこかで聞いたことがある気もするがそんなことはどうでもよかった。
ひとつずつでもまともに出来ないくせに、琴子はながら見を好む。今も。歌詞をたどりながら雑誌をめくる。
その目はまた直樹とのことでも妄想でもしているのかうっとりと細められていた。
頬をほのかに薔薇色に染め、長いまつげを伏せる。
ぱっちりとした大きな瞳。
白く肌理細やかな綺麗な肌。
俺とは違う小さな手がまたページをたどる。

「琴子。」

琴子が聴いていた曲は終盤に差し掛かったのか、最初は鼻歌だったのに今では完全に声に出てしまっている。
当然、琴子に俺の声は届かない。
少しだけ考えてみるが、やっぱり面白くなかった。

ベッドに投げ出された細い足。
囲むように琴子の両脇に腕をつくと柔らかいベッドが軋んで、異常を感じた琴子がようやく顔を上げた。

「入江くん?」

さっきまで歌詞をたどっていたピンクの唇が俺の名前をつむぎ、大きな目が俺を写す。
そのまま体重をかける様に琴子にのしかかると慌てて琴子が体をひねった。

「や、どうしたの?」

焦って体を押し返そうとする琴子の体を抑えて無防備に晒しだされた足を撫でる。
途端に顔を赤くして頭を振る琴子の耳からイヤフォンが外れた。
微かに琴子が聞いていた音楽が漏れ聞こえる。
歌唱部分はもう終わってしまったのか漏れ聞こえるのはイントロ部分だけ。
琴子を抱きしめウォークマンを取り上げると、ちょうど演奏が終わったのを確認して電源を落とした。
4分47秒。
たったそれだけなのに、その間俺が琴子ばかりに気を取られていた様で、気に入らない。

「入江くんてばっ!」

俺から何の返事も返ってこないのが不満なのか、俺を呼び続ける琴子にようやく少し満足する。
俺が約5分間味わわされた思い。
その不満を言葉にすることはないけれど、その代わりに胸に巣食う気持ちを誤魔化す様にうるさく喚く琴子の唇をふさいだ。
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