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「短編」
結婚後

キューティーハニー

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「なんなら再現しても…「ひぇぇー、やめてぇ!」
入江くんと理加ちゃんの間に立ちふさがったあたしの唇に掠めるように理加ちゃんの柔らかい唇が重なる。
「…これが7年前の再現。」
理加ちゃんはからかうように笑って嘘をついたことを謝ってくれたけど、あたしは頬を赤くして応えることが出来なかった。
突然のことにあたしの頭がついていかないうちに手を振りながら小さくなってしまう理加ちゃん。
ごめんねって言葉に慌てて後姿に声を張り上げたら恥ずかしそうに返してくれた。

嵐の様だったけど、とても可愛くて、入江くんのことが本気で好きだった理加ちゃん。
長い長い片思いも恋が破れる気持ちも、本当は私が一番分かってるけど、どれだけケンカしようと入江くんを譲ることは出来なかった。
長さでは負けても絶対あたしの好きの方が重いもん。
理加ちゃんは最後まで相変わらずだったけど、それでもあたしに本当のことを言ってくれた。それはきっと理加ちゃんが凄く優しい子だから。
入江くんと話してから納得したつもりでいたけど、やっぱりどこか気になってたの。
入江くんがした、あたし以外とのキス。
あたしが遠くから入江くんを見ていた間に交わされていた入江くんの初めてのキス。
入江くんとのキスはどれも大事な思い出だけど、やっぱり初めては特別だから。
あたしとだけキスした入江くんでいて欲しかったなって思うのはあたしの我侭なのかな。

溜息をつきながらそっと高校生の頃を思い出して唇をなぞる。
初めて目が合った高1の球技大会。
初めてしゃべった高2の秋。
たくさん初めてが増えた高3。
卒業式の時の、始めてのキス。
理加ちゃんとキスしたとき、入江くんは何にも思わなかったのかな?
同姓のあたしだってあんなにどきどきしたんだもん。
…あたしとのキスは…どうだったんだろ。

**********

「琴子。寝室で本を読むからコーヒー。」
「はーい!」
お義母さんの美味しい夕食の後、入江くんはお風呂上りの髪を無造作にタオルで拭いながらリビングに顔を出した。
入江くんがこれだけは美味しいって褒めてくれたコーヒー。
嬉しくてもっと美味しいって思ってもらえるように丁寧にコーヒーを淹れる。
準備が出来て振り向くと、入江くんは先に寝室に行っちゃったみたい。
本を読むって言ってたから邪魔かも知れないけど、少しでも一緒にいたくて、あたしは自分の分のカフェラテと一緒にコーヒーをトレーに載せると追いかけるように階段を上がった。

「入江くん、コーヒー持ってきたよ。」
一声だけかけて扉を開ける。
結婚してもう何年も経つのに今でも少しくすぐったい。二人の寝室。
ダブルの大きなベッドに腰掛けながら医学書を開いている入江くんに近づくと、サイドテーブルの上にトレーを載せた。
「ん。」生返事で返されて少し不満に思いながらもマグを手渡すと入江くんは受け取ってすぐコーヒーを一口口に含む。
ほんのちょっとだけど、飲んだ瞬間満足そうに細められる目。
「美味しい?」
「まぁ、これだけはな。」
意地悪に微笑む入江くんにあたしはそっと寄り添うように腰を下ろした。
「…なんだよ?」
「なんでも。」
両手で自分のマグを持ちながら隣に座ると、ミルクたっぷりのカフェオレを飲む。
思ったより熱くて、少し冷まそうと息を吹きかけているとふっと目の前が真っ暗になった。
ふんわりと香るコーヒーと石鹸の香り。
ドキドキするのにどこか安心する入江くんの匂い。
うっとりと目を閉じていると少ししてゆっくりと入江くんの体温が離れていった。
「お前、俺がファーストキスなんだよな。」
「…そうだよ。」
「2回目は?清里?」
入江くんの手が重なって、そっと奪い取られたマグはいつの間にかサイドテーブルに戻されていた。
「そうだけど。」
「3回目があの日か。」
「そう。…どうしたの?」
入江くんの綺麗な顔で見つめられて心臓が不自然なくらいにどきどきと早くなる。
そっと重ねられる唇に自然に閉じる瞼。
もう何度目なのか分からないけど、恥ずかしくてでも嬉しくて、いつもキスする瞬間は入江くんの顔を見られない。
大好きな大きな手があたしの髪や頬を撫でてくれて、自分でも情けないほど頬が緩むのを感じた。
我慢しきれなくなって腕を伸ばすと入江くんの腰にまきつくように腕を回して胸に顔を埋める。
耳元に感じる入江くんの吐息。低く笑いながら入江君があたしを抱く腕に力が入るのを感じた。
「今日、理加にキスされて真っ赤になってたじゃん。」
「えっ?…だって女の子とキスしたの初めてだし…。」
「…ふーん。」
何が言いたいのか分からなくて入江くんを見上げるとまたキスされちゃった。
チュッチュッと軽く食むように繰り返されるキスに力が抜ける。
「入江くぅん…。」
すがるようにパジャマを掴むと入江くんが微笑むのが分かった。
少し熱を持った気がする唇を綺麗な指が撫でる。
「理加にはやられたな…。」
何を、とは聞かせてもらえなかった。



少しお久しぶりです。
更新しないうちに拍手が累計1000回を超え、サイトのアクセス数も20000を超えました!
本当にありがとうございます!

新しい連載かせめて短編でもと思っていたのですが、なかなか思い浮かばず…。
とりあえず書いてみようと理加ちゃんとのキスに嫉妬する入江くんをイメージしてみました。
そろそろまた更新を再開させたいのですが、そのうちR指定に踏み込みそうで怖い自分もいます。
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