「長編」
stay with me 【完】
stay with me 30
花嫁姿の琴子と直樹は、直樹がスーツ姿であるにもかかわらず、不破の目にも眩しいほど似合って見えた。
小柄な琴子の体を抱きしめて軽いキスを繰り返す直樹からは彼の愛情が匂い立つように見える気さえする。
「好きだよ。」
キスの合間に告げられる告白に琴子の目尻からは涙が珠となって零れ落ちた。
「入江くん…。」
「お前は?まだ俺が好きだろ?」
「…ぅん…。大好き…。」
せっかくプロの手で美しく整えて貰ったのに、琴子の涙と直樹の執拗なキスで乱れた琴子は、それでも先ほどよりも格段に美しく思えた。
頬は薔薇色に染まり、瞳にも先ほどの頼りなさはない。直樹の腕の中で確かな喜びに輝いている。
おそるおそる伸ばされた細い腕が直樹の背に回ると、彼も幸せそうに微笑んだ。
黙ってその抱擁を見守り、不破は落ちてしまったカサブランカの花束を拾い上げる。
音を立てないつもりだったのにカサブランカが微かに立てたかさついた音に気がついたのだろう。琴子の意識が直樹から離れる。
向かい合う花嫁と花婿の間に流れる静かな空気。
琴子はそっと直樹から離れると不破に向き直った。
「不破さん、あたし…。」
「…沙穂子さんに手紙を書いた。近々会いに行くから時間をとって欲しいって。」
「本当ですか!?…沙穂子さんはなんて?」
「お待ちしています。と言ってくれたよ。会って話してくる。」
「不破さん…。」
微笑む不破の目に以前のような暗い印象はない。
琴子は右手を不破にとられた。
不破の長い指が琴子の薬指をなぞる。
そこには今朝まで2人の婚約の証が輝いていた。
「あの指輪を選んだときは相原さんと結婚するのもいいって本当に思ってたよ。」
「……。」
「でも君の思いが彼に伝わってるのを見たら俺もぶつけてみたくなってね。」
悪いと言って不破は軽く頭を下げた。
ぶんぶんと琴子の頭が左右に揺れる。
言葉がなにも出てこないことが琴子には情けない。
そんな琴子に不破は今までで一番の笑顔を見せてくれた。
手を琴子の目の高さにまで持ち上げ、軽く腰を曲げて細い薬指の付け根にキスを落とす。
途端に直樹が嫌そうに眉をひそめたことは知っていたが、不破は構わず琴子の手を強く握った。
「君を見習って沙穂子さんを振り向かせてみる。だから君たちの結婚式には招待してくれよ。」
泣きながら頷く琴子に不破はそっと唇を落とした。
額に触れる微かな感触に琴子の頬が赤く染まる。
そこで我慢の限界にきたのか琴子は直樹の腕の中に消えた。
閉じ込めるようにして彼女を独占する彼に笑いが漏れる。
「さっきも言ったけど会長の望みは果たしたからな。婚約破棄は心配しなくていい。あの指輪は大泉からの慰謝料として好きにしてくれていいよ。」
えっと戸惑う琴子だったが、その先は言わせて貰えなかった。
「お返しします。」
それより先に凛とした声が聖堂に響いてしまったから。
「すぐに送り返しますので、そっちで好きに処分してください。」
不破や琴子になにも言わせることなく言葉を重ねると、直樹は琴子の右手をとって指を絡める。
五指すべてを絡め取られて、琴子の手は直樹に繋がれた。
そこに他人の証は必要ない。
「琴子にはちゃんと違う物を用意します。」
「入江くん…?」
目を丸くする琴子に直樹は今までの謝罪もこめて優しく微笑んだ。
「俺が応えたからには他によそ見してる暇ないだろ?他の男は必要ないから虫除けにな。」
不破の前でプロポーズは出来ないが、琴子を傷つけた分、直樹は自分の気持ちをはっきりさせたかった。
遠回しになってしまったが、直樹はもう積極性に人と関わり、寄り添う術を知った。
そういう意味でも大泉は人間観察に優れていたのだと思う。
きっと不破が動けば奥手と言われる沙穂子とも上手く行くのだろう。
「琴子、準備があるからもう行くぞ。」
「ちょっ…入江くん?」
肩を抱かれ半ば引きずられるようにバージョンロードを歩く琴子と直樹。
それは近い未来の2人を予想するようだった。
2人を見送って屋敷に帰ると、不破は沙穂子に会うために荷物をまとめた。
そんな彼の元に翌日には送り返された指輪。
中には琴子の手紙が同封されていた。
明るく、幸せに満ちた手紙。
それを手に、不破は沙穂子がいる国へ飛び立った。
小柄な琴子の体を抱きしめて軽いキスを繰り返す直樹からは彼の愛情が匂い立つように見える気さえする。
「好きだよ。」
キスの合間に告げられる告白に琴子の目尻からは涙が珠となって零れ落ちた。
「入江くん…。」
「お前は?まだ俺が好きだろ?」
「…ぅん…。大好き…。」
せっかくプロの手で美しく整えて貰ったのに、琴子の涙と直樹の執拗なキスで乱れた琴子は、それでも先ほどよりも格段に美しく思えた。
頬は薔薇色に染まり、瞳にも先ほどの頼りなさはない。直樹の腕の中で確かな喜びに輝いている。
おそるおそる伸ばされた細い腕が直樹の背に回ると、彼も幸せそうに微笑んだ。
黙ってその抱擁を見守り、不破は落ちてしまったカサブランカの花束を拾い上げる。
音を立てないつもりだったのにカサブランカが微かに立てたかさついた音に気がついたのだろう。琴子の意識が直樹から離れる。
向かい合う花嫁と花婿の間に流れる静かな空気。
琴子はそっと直樹から離れると不破に向き直った。
「不破さん、あたし…。」
「…沙穂子さんに手紙を書いた。近々会いに行くから時間をとって欲しいって。」
「本当ですか!?…沙穂子さんはなんて?」
「お待ちしています。と言ってくれたよ。会って話してくる。」
「不破さん…。」
微笑む不破の目に以前のような暗い印象はない。
琴子は右手を不破にとられた。
不破の長い指が琴子の薬指をなぞる。
そこには今朝まで2人の婚約の証が輝いていた。
「あの指輪を選んだときは相原さんと結婚するのもいいって本当に思ってたよ。」
「……。」
「でも君の思いが彼に伝わってるのを見たら俺もぶつけてみたくなってね。」
悪いと言って不破は軽く頭を下げた。
ぶんぶんと琴子の頭が左右に揺れる。
言葉がなにも出てこないことが琴子には情けない。
そんな琴子に不破は今までで一番の笑顔を見せてくれた。
手を琴子の目の高さにまで持ち上げ、軽く腰を曲げて細い薬指の付け根にキスを落とす。
途端に直樹が嫌そうに眉をひそめたことは知っていたが、不破は構わず琴子の手を強く握った。
「君を見習って沙穂子さんを振り向かせてみる。だから君たちの結婚式には招待してくれよ。」
泣きながら頷く琴子に不破はそっと唇を落とした。
額に触れる微かな感触に琴子の頬が赤く染まる。
そこで我慢の限界にきたのか琴子は直樹の腕の中に消えた。
閉じ込めるようにして彼女を独占する彼に笑いが漏れる。
「さっきも言ったけど会長の望みは果たしたからな。婚約破棄は心配しなくていい。あの指輪は大泉からの慰謝料として好きにしてくれていいよ。」
えっと戸惑う琴子だったが、その先は言わせて貰えなかった。
「お返しします。」
それより先に凛とした声が聖堂に響いてしまったから。
「すぐに送り返しますので、そっちで好きに処分してください。」
不破や琴子になにも言わせることなく言葉を重ねると、直樹は琴子の右手をとって指を絡める。
五指すべてを絡め取られて、琴子の手は直樹に繋がれた。
そこに他人の証は必要ない。
「琴子にはちゃんと違う物を用意します。」
「入江くん…?」
目を丸くする琴子に直樹は今までの謝罪もこめて優しく微笑んだ。
「俺が応えたからには他によそ見してる暇ないだろ?他の男は必要ないから虫除けにな。」
不破の前でプロポーズは出来ないが、琴子を傷つけた分、直樹は自分の気持ちをはっきりさせたかった。
遠回しになってしまったが、直樹はもう積極性に人と関わり、寄り添う術を知った。
そういう意味でも大泉は人間観察に優れていたのだと思う。
きっと不破が動けば奥手と言われる沙穂子とも上手く行くのだろう。
「琴子、準備があるからもう行くぞ。」
「ちょっ…入江くん?」
肩を抱かれ半ば引きずられるようにバージョンロードを歩く琴子と直樹。
それは近い未来の2人を予想するようだった。
2人を見送って屋敷に帰ると、不破は沙穂子に会うために荷物をまとめた。
そんな彼の元に翌日には送り返された指輪。
中には琴子の手紙が同封されていた。
明るく、幸せに満ちた手紙。
それを手に、不破は沙穂子がいる国へ飛び立った。
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