「長編」
stay with me 【完】
stay with me 27
入江くんへ
カードと同封されていた紙は琴子からの手紙だった。
丸い琴子の字で書かれた書き出しは昔読んだラブレターを直樹に思い出させる。
はじめまして、入江くん。
わたしはF組の相原琴子といいます。
あなたはわたしのこと知らないでしょうけれど、わたしは知っています。
琴子も直樹にあてた手紙で真っ先にそのことを思い出したのだろう、高校生のときに受け取った、そのままの文章が思いを乗せて綴られていた。
直樹に気持ちを伝えようと懸命に書かれた手紙は始まりを期待してのものだっただろうに、彼はそれを受け取らなかった。
後に読んだものの親同士が親友でなかったらここまで近しくなることはなかっただろう。
椅子にもたれて琴子との思い出を振り返りながらこめられた思いを拾い上げる。
入江くんはこの文章、まだ覚えてるかな?
あたしは入江くんと違ってバカだけど、あの手紙のことだけはよく覚えてるよ。
初めて書いたラブレターだからすっごくドキドキしたの。
読むどころか受け取ってすら貰えなかったけど。
あの時は憧れてた入江くんがあんまりに冷たくてショックだった。
でもどれだけ大嫌いだと思っても結局は大好きでした。
入江くん、金ちゃんに言ったことあったでしょ?
今日はきらいでも明日は好きになってるかもって。
いつか明日が来ればいいってずっと思ってた。…結局明日は来なかったけどね。
この前も言ったけど、あたしはもう入江くんとの明日を6年も期待して疲れちゃったの。
いつか入江くんに好きな人が出来るまでって甘えてたけど、その日が耐えられなくなりました。
…イタズラなだけのキスももういらない。
やっぱり入江くんはあたしとは違いすぎて縁がなかったみたい。
あたし、不破さんと結婚するね。
急だと思うかもしれないけど、不破さんは本当にあたしにはもったいないくらいいい人なの。
お父さんの店を継ぐのは金ちゃんがいるし、あたしが決めたことなら反対しないって。
おばさんから、おじさんの体調もよくなってきたって聞きました。
入江くんに出来ないことなんてないんだから、きっと会社を立て直してお医者様にでも敏腕社長にでもなれるよ。
全部うまくいくよ。だから安心して!おじさんの力になってあげてね!
琴子
大好きと書かれた部分を指でなぞる。
これが書かれたのは文面的に直樹が琴子と会ったあの夜の後だろう。
最初の一通とは違い、可愛らしいレターセットではなく事務的なルーズリーフに書かれた手紙。
最後は明るく力強く締めくくられていたが、直樹にはどこか強がっているように思えた。
直樹を力づけようとする文面に心が痛む。
医者になりたかったのは琴子が言い出したからだ。遅くなっても医者になってその姿を彼女にそばで見ていて欲しかった。
琴子が望んでいた明日は、今、直樹も強く望んでいるものなのだから
望む明日が一緒なら諦める必要などない。
2通目の手紙を読んで、改めてその思いを強くする。
琴子が疲れてしまったなら、直樹が少しだけ立ち止まって振り返ればいい。
これまでさんざん傷つけたが、今までの分は他の誰でもなく、自分の手で癒して、また一緒にいて欲しかった。
琴子は何事にも前向きで、根性がある。そこに直樹が少しでも力を貸せばその結果は予想の何倍ものパワーになるのだから。縁がないなんて簡単に片づけられたくない。
琴子からの手紙を折りたたんで丁寧に机にしまうと、直樹は見たくもない招待状を見た。
いつの間にそこまで準備が進んでいたのか、式は3週間後になっていた。
マスコミへの影響も考えてとりあえず身内だけでの式を挙げると書かれているが、入籍もそれからなのだろう。
琴子の気持ちは変わっていない。今も直樹はそう信じている。
今までは琴子が動いてくれていたが、それに甘んじて3度目のキスをまたイタズラのものだと思わせてしまったのは明らかな直樹のミスだ。
琴子は自分の気持ちそのまま直樹に伝えてきていたが、それは本当は難しいことだと彼は知っている。
しかし、伝えなければ始まらない。
琴子が手紙で、行動でそれを教えてくれた。
カードと同封されていた紙は琴子からの手紙だった。
丸い琴子の字で書かれた書き出しは昔読んだラブレターを直樹に思い出させる。
はじめまして、入江くん。
わたしはF組の相原琴子といいます。
あなたはわたしのこと知らないでしょうけれど、わたしは知っています。
琴子も直樹にあてた手紙で真っ先にそのことを思い出したのだろう、高校生のときに受け取った、そのままの文章が思いを乗せて綴られていた。
直樹に気持ちを伝えようと懸命に書かれた手紙は始まりを期待してのものだっただろうに、彼はそれを受け取らなかった。
後に読んだものの親同士が親友でなかったらここまで近しくなることはなかっただろう。
椅子にもたれて琴子との思い出を振り返りながらこめられた思いを拾い上げる。
入江くんはこの文章、まだ覚えてるかな?
あたしは入江くんと違ってバカだけど、あの手紙のことだけはよく覚えてるよ。
初めて書いたラブレターだからすっごくドキドキしたの。
読むどころか受け取ってすら貰えなかったけど。
あの時は憧れてた入江くんがあんまりに冷たくてショックだった。
でもどれだけ大嫌いだと思っても結局は大好きでした。
入江くん、金ちゃんに言ったことあったでしょ?
今日はきらいでも明日は好きになってるかもって。
いつか明日が来ればいいってずっと思ってた。…結局明日は来なかったけどね。
この前も言ったけど、あたしはもう入江くんとの明日を6年も期待して疲れちゃったの。
いつか入江くんに好きな人が出来るまでって甘えてたけど、その日が耐えられなくなりました。
…イタズラなだけのキスももういらない。
やっぱり入江くんはあたしとは違いすぎて縁がなかったみたい。
あたし、不破さんと結婚するね。
急だと思うかもしれないけど、不破さんは本当にあたしにはもったいないくらいいい人なの。
お父さんの店を継ぐのは金ちゃんがいるし、あたしが決めたことなら反対しないって。
おばさんから、おじさんの体調もよくなってきたって聞きました。
入江くんに出来ないことなんてないんだから、きっと会社を立て直してお医者様にでも敏腕社長にでもなれるよ。
全部うまくいくよ。だから安心して!おじさんの力になってあげてね!
琴子
大好きと書かれた部分を指でなぞる。
これが書かれたのは文面的に直樹が琴子と会ったあの夜の後だろう。
最初の一通とは違い、可愛らしいレターセットではなく事務的なルーズリーフに書かれた手紙。
最後は明るく力強く締めくくられていたが、直樹にはどこか強がっているように思えた。
直樹を力づけようとする文面に心が痛む。
医者になりたかったのは琴子が言い出したからだ。遅くなっても医者になってその姿を彼女にそばで見ていて欲しかった。
琴子が望んでいた明日は、今、直樹も強く望んでいるものなのだから
望む明日が一緒なら諦める必要などない。
2通目の手紙を読んで、改めてその思いを強くする。
琴子が疲れてしまったなら、直樹が少しだけ立ち止まって振り返ればいい。
これまでさんざん傷つけたが、今までの分は他の誰でもなく、自分の手で癒して、また一緒にいて欲しかった。
琴子は何事にも前向きで、根性がある。そこに直樹が少しでも力を貸せばその結果は予想の何倍ものパワーになるのだから。縁がないなんて簡単に片づけられたくない。
琴子からの手紙を折りたたんで丁寧に机にしまうと、直樹は見たくもない招待状を見た。
いつの間にそこまで準備が進んでいたのか、式は3週間後になっていた。
マスコミへの影響も考えてとりあえず身内だけでの式を挙げると書かれているが、入籍もそれからなのだろう。
琴子の気持ちは変わっていない。今も直樹はそう信じている。
今までは琴子が動いてくれていたが、それに甘んじて3度目のキスをまたイタズラのものだと思わせてしまったのは明らかな直樹のミスだ。
琴子は自分の気持ちそのまま直樹に伝えてきていたが、それは本当は難しいことだと彼は知っている。
しかし、伝えなければ始まらない。
琴子が手紙で、行動でそれを教えてくれた。
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