「長編」
stay with me 【完】
stay with me 26
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」
受付の女性に案内されて直樹は応接室へと通された。
事前に一応のアポイントを取ってはいたが自分でも突然だったと思う。
それでも待ち人はすでに室内にいた。
急に会いたいと言ったにも関わらず、大泉会長は笑顔で直樹を待っていた。
**********
半ば無理やり面会を取り付けたため、大泉と面会できる時間は限られていた。
早々に今回の融資といまだ連絡をとることすら出来ない琴子のことが関係するのか言及したかったものの、のらりくらりと決定的なことを避けて世間話を始める大泉に、直樹は内心苛立ちながらも必死で平静を装った。
北英社から受けた融資のこともあり、強く出ることが出来ないことも理由にあるが、大泉としてもこのまま事を進めるつもりなのだろう。
そろそろ退出時間も迫った頃になってようやく話が不破のことへと流れた。
これを好機と見て、直樹は不自然にならないように微笑む。
「不破さんは随分優秀な方なんですね。融資の提案内容を検討させて頂きましたが一分の隙も見当たりませんでした。」
「そうかい?いやぁ、直樹くんにそう言って貰えると嬉しいな。身内を褒めるようでなんだが不破はなかなかいい男でね。」
「……。失礼ですがお孫さんとご結婚の噂があるとか。」
「沙穂子か…。あの子は今留学に出てるんだ。結婚はしばらくありゃせんよ。」
「…。」
「それに不破は他の子と結婚する予定でね。最初は沙穂子と不破が上手くいけばいいと思ったが、二人とも積極性にかける。孫は可愛いが北英社は不破に継がすつもりだ。そのためにもこのままではいけない。不破にはもっとパワーのある子が必要だ。…そうは思わないか?」
「…それは相原琴子のことですか?ご融資には感謝していますが、投資していただいた分は倍以上にして還元できるようにします。相原は会社には関係ありません。」
「直樹くん、人との関係はそんなに簡単じゃない。…不破には積極性が足りないが、君も不破とは違う意味で足りないようだね。…もう時間だ。琴子さんなら家で預かっているから心配する必要はない。」
「会長!」
「今君にかき回されたくはない。琴子さんが自分で決めたことでもある。重圧にも耐え切れない君の出る幕ではないんじゃないか?」
冷たい。経営者としての顔に、直樹は取り繕うこともせず下唇を噛んだ。
**********
結局目覚しい進展もなく、直樹は疲れた体を引きずって家へと帰り着いた。
もしかしたら琴子が帰っているかもしれないと期待して部屋も訪ねたが彼女の姿はない。
それどころか積み上げられたダンボールを見てしまい、本当にこの家を出る気があったことに愕然とする。
しかしそれも指輪まで存在する現状を考えると想定の範囲内だ。
いまだ姿が見えないことに苛立つ気持ちもあるが、とりあえず琴子の居場所だけは分かった。
大泉が預かっているということは恐らく不破もそばに居るのだろう。
そう考えただけで不快感に頭が痛む。
重ねた唇の記憶は甘く、直樹の心を刺激する。その直後叩かれた頬の痛みも琴子が流した涙も忘れることは出来ないが、それでも彼女を連れ戻さなければ直樹が望む未来はない。
一縷の望みをかけて再度琴子の携帯を鳴らしたが、やはり通じることはなかった。
直樹が直接大泉邸に行ってもいいが、もともと大企業の会長の邸宅だ。
面会の様子からもすんなり入れて貰えるとは思えない。
会社の社運をかけたゲームの開発もある。
琴子を追いかけたいが企画が疎かになっては大泉も婚約不履行を了承しないだろう。
琴子の気だって晴れないに違いない。
文句のつけようのない成果を出して琴子を迎えに行く。そう決断した直樹をあざ笑うかのようにその翌々日には真っ白い封筒がバンダイの直樹宛に届いた。
封筒には流暢な文字で入江直樹様という宛名が踊っていた。
裏面には不破万里と相原琴子の名前が連名で書かれている。
見覚えのない字は恐らく不破のものだ。
震える手で直樹は封を切った。
1枚のカードとルーズリーフのような紙。
カードには考えたくもない、結婚式の日時と会場の案内があった。
昨晩は更新できませんでした。
仕事でへましてしまって久々に落ち込んでたら、一切まとまらなくて…。
明日明後日とお休みですので、今からもう一本書きます。
受付の女性に案内されて直樹は応接室へと通された。
事前に一応のアポイントを取ってはいたが自分でも突然だったと思う。
それでも待ち人はすでに室内にいた。
急に会いたいと言ったにも関わらず、大泉会長は笑顔で直樹を待っていた。
**********
半ば無理やり面会を取り付けたため、大泉と面会できる時間は限られていた。
早々に今回の融資といまだ連絡をとることすら出来ない琴子のことが関係するのか言及したかったものの、のらりくらりと決定的なことを避けて世間話を始める大泉に、直樹は内心苛立ちながらも必死で平静を装った。
北英社から受けた融資のこともあり、強く出ることが出来ないことも理由にあるが、大泉としてもこのまま事を進めるつもりなのだろう。
そろそろ退出時間も迫った頃になってようやく話が不破のことへと流れた。
これを好機と見て、直樹は不自然にならないように微笑む。
「不破さんは随分優秀な方なんですね。融資の提案内容を検討させて頂きましたが一分の隙も見当たりませんでした。」
「そうかい?いやぁ、直樹くんにそう言って貰えると嬉しいな。身内を褒めるようでなんだが不破はなかなかいい男でね。」
「……。失礼ですがお孫さんとご結婚の噂があるとか。」
「沙穂子か…。あの子は今留学に出てるんだ。結婚はしばらくありゃせんよ。」
「…。」
「それに不破は他の子と結婚する予定でね。最初は沙穂子と不破が上手くいけばいいと思ったが、二人とも積極性にかける。孫は可愛いが北英社は不破に継がすつもりだ。そのためにもこのままではいけない。不破にはもっとパワーのある子が必要だ。…そうは思わないか?」
「…それは相原琴子のことですか?ご融資には感謝していますが、投資していただいた分は倍以上にして還元できるようにします。相原は会社には関係ありません。」
「直樹くん、人との関係はそんなに簡単じゃない。…不破には積極性が足りないが、君も不破とは違う意味で足りないようだね。…もう時間だ。琴子さんなら家で預かっているから心配する必要はない。」
「会長!」
「今君にかき回されたくはない。琴子さんが自分で決めたことでもある。重圧にも耐え切れない君の出る幕ではないんじゃないか?」
冷たい。経営者としての顔に、直樹は取り繕うこともせず下唇を噛んだ。
**********
結局目覚しい進展もなく、直樹は疲れた体を引きずって家へと帰り着いた。
もしかしたら琴子が帰っているかもしれないと期待して部屋も訪ねたが彼女の姿はない。
それどころか積み上げられたダンボールを見てしまい、本当にこの家を出る気があったことに愕然とする。
しかしそれも指輪まで存在する現状を考えると想定の範囲内だ。
いまだ姿が見えないことに苛立つ気持ちもあるが、とりあえず琴子の居場所だけは分かった。
大泉が預かっているということは恐らく不破もそばに居るのだろう。
そう考えただけで不快感に頭が痛む。
重ねた唇の記憶は甘く、直樹の心を刺激する。その直後叩かれた頬の痛みも琴子が流した涙も忘れることは出来ないが、それでも彼女を連れ戻さなければ直樹が望む未来はない。
一縷の望みをかけて再度琴子の携帯を鳴らしたが、やはり通じることはなかった。
直樹が直接大泉邸に行ってもいいが、もともと大企業の会長の邸宅だ。
面会の様子からもすんなり入れて貰えるとは思えない。
会社の社運をかけたゲームの開発もある。
琴子を追いかけたいが企画が疎かになっては大泉も婚約不履行を了承しないだろう。
琴子の気だって晴れないに違いない。
文句のつけようのない成果を出して琴子を迎えに行く。そう決断した直樹をあざ笑うかのようにその翌々日には真っ白い封筒がバンダイの直樹宛に届いた。
封筒には流暢な文字で入江直樹様という宛名が踊っていた。
裏面には不破万里と相原琴子の名前が連名で書かれている。
見覚えのない字は恐らく不破のものだ。
震える手で直樹は封を切った。
1枚のカードとルーズリーフのような紙。
カードには考えたくもない、結婚式の日時と会場の案内があった。
昨晩は更新できませんでした。
仕事でへましてしまって久々に落ち込んでたら、一切まとまらなくて…。
明日明後日とお休みですので、今からもう一本書きます。
- 関連記事
-
- stay with me 27
- stay with me 26
- stay with me 25
スポンサーサイト
~ Comment ~
莉久様
まさかになってましたか?
あの雨のシーンは原作でも大好きなシーンなので、あまり変えてしまうのもどうかと思ったのですが、山場として書いてしまいました。
予想をいい意味で裏切れるといいんですが…。
これからの入江くんの頑張り、琴子ちゃんの意地、不破さんの行動にご注目下さい。
『愛のかたまり』いいですね!生で聞くと鳥肌が立ちます。
『to Heart』もドラマ込みで大好きです!時枝ユウジがかっこよくて。
最近短編を書いてないので、stay with meが一段落したら、また書きたいです。
あの雨のシーンは原作でも大好きなシーンなので、あまり変えてしまうのもどうかと思ったのですが、山場として書いてしまいました。
予想をいい意味で裏切れるといいんですが…。
これからの入江くんの頑張り、琴子ちゃんの意地、不破さんの行動にご注目下さい。
『愛のかたまり』いいですね!生で聞くと鳥肌が立ちます。
『to Heart』もドラマ込みで大好きです!時枝ユウジがかっこよくて。
最近短編を書いてないので、stay with meが一段落したら、また書きたいです。
- #16 pukka
- URL
- 2012.05/13 13:45
- ▲EntryTop
こんばんわ
入江くんのところに琴子ちゃんと不破さんの結婚式の招待状が届くとなると予想してませんでした
あの場面で終わるかと思っていたんですが雨ではなかったのでもしやと思っていたのが現実に………
入江くんが2人の結婚式までにコトリンが間に合うことを願っていますがこれからのことを想像するとあのシーンで入江くんが………って勝手に期待していますね
近/畿/小/子の曲は二人の合作の『愛のかたまり』が好きですね
あと『to Heart』も印象深いですね
あのドラマきっかけで彼らのファンになりましたからね
それでは続きを楽しみにしていますね
でわ、深夜遅くに失礼しました