「短編」
結婚後
禁断の果実
「くしゅん。ぁ…」
普段騒々しい琴子からは似つかわしくないような控えめで可愛らしいくしゃみ。
手で口元を押さえて肩を揺らすと、琴子は何かに気づいて小さな声を上げた。
**********
「琴子、これ。」
すっと差し出された桔梗の大きな手に琴子はきょとんと目を丸くして首を傾げた。
彼の掌には不釣り合いに思える手のひらサイズの小さな丸い缶が乗っている。
促されて琴子が桔梗からそれを受け取るとパッケージには青リンゴと、ペンギンらしき絵が買かれていた。
「リップバームよ。あんたケア用品切らしてたでしょ」
「用意してくれたの?わざわざありがとう!」
「あんた、結婚してるからって惰性はだめよ。入江さんに愛想尽かされても知らないから。」
ふふっと桔梗が綺麗な顔に意地悪な笑顔を浮かべると、琴子はむっと眉をしかめた。
不満げに突き出された唇は少し荒れて下唇の中央に痛々しい線が一本はいっている。
「ほら、さっさと塗っちゃいなさい。」
ぽんぽんと頭を撫でて促すと、琴子は素直に頷いてふたを開けた。
ふんわりと香る青リンゴ。
優しい香りに琴子は目を細めた。
人差し指に真新しいリップバームをつけて唇に塗りつける。
が、少し分量が多かったらしく、ぷっくりとした唇からはみ出して光沢を出している。
よし、と本人は至って満足げにふたを閉めていて、桔梗はこれ見よがしに溜息をついた。
「琴子。」低く呼びかけて唇に親指で触れる。
「ひゃっ、なにモトちゃん!?」
急に延びてきた指に唇の輪郭をなぞるように触られて、琴子は焦ったように間抜けな声を上げた。
「はみ出てる。」
数回撫でてようやく離れた指に琴子はほっと息を吐いた。
プレゼントのお礼も込めてにっこり微笑む。
「ありがとう、モトちゃん!」
「この唇が入江さんのと触れると思うと羨ましいわね…。」
「モトちゃん、その言い方変態くさいよ。」
二人で並んでナースステーションに戻る。
その姿は楽しげで、周りにいた者たちはそろって目を細めた。
**********
「琴子。」
直樹と琴子、二人の寝室。
ベッドに腰掛けた琴子は隣に座る直樹に肩を抱かれて向かい合った。
勤務が不規則で、こうして夜二人で過ごすのは久しぶりだ。
近付いてくる端正な顔に、琴子は頬を赤く染めながら目を閉じた。
「琴子、なんか塗ってる?」
唇を触れ合わせながら囁く直樹に、琴子は苦笑で返した。
あれからようやく直樹と過ごす時間があると分かった琴子は急にケアに気を使った。
桔梗から貰ったリップバームはもう半分ほどの量になっている。
「モトちゃんにね、リップバーム貰ったの。」
「ふぅん。」
自分から聞いたくせに直樹の反応は鈍い。
しかし琴子に不満はなかった。
数日前、切れていた唇はつやつやで、肌触りよく直樹の唇を迎えてくれる。
「リンゴの匂いがする。」
チュッと下唇を吸われ体が震える。
「青リンゴの香りなの。私最初量が上手くとれなくて。べたべたになっちゃった。」
ふふっと思い出し笑いをする琴子に、直樹の眉がよる。
「それで?桔梗の世話になってたのか?」
「ん?入江君何で知ってるの?」
不思議そうに覗き込む琴子。
大きな彼女の瞳に自分だけが映っていることを確認した直樹は琴子をベッドへと押し倒した。
「…ばーか。」
彼女のことは良くも悪くも噂になりやすい。
大したことない日常の些細なことさえ直樹の耳に面白おかしく入ってくることなど、そろそろ気がついてもおかしくはないはずだ。
それでも気がつかないのが琴子なのだろう。
諦めの境地で溜息をつくと直樹はことさら呆れた顔をして見せた。
「もうそろそろ乾燥もましになるだろ。あんまり桔梗に迷惑かけるなよ?」
彼女の言い分も、桔梗が渡した青りんごも丸ごと奪うように唇を重ねる。
二人の唇からはいつしか薄れたりんごの香りがした。
書いたものの、季節はずれやわ。と置いておくこと2週間ほど。
完全に忘れていたので場つなぎ的にアップして置きます。
忘れていた性で更なる季節はずれですが…。
普段騒々しい琴子からは似つかわしくないような控えめで可愛らしいくしゃみ。
手で口元を押さえて肩を揺らすと、琴子は何かに気づいて小さな声を上げた。
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「琴子、これ。」
すっと差し出された桔梗の大きな手に琴子はきょとんと目を丸くして首を傾げた。
彼の掌には不釣り合いに思える手のひらサイズの小さな丸い缶が乗っている。
促されて琴子が桔梗からそれを受け取るとパッケージには青リンゴと、ペンギンらしき絵が買かれていた。
「リップバームよ。あんたケア用品切らしてたでしょ」
「用意してくれたの?わざわざありがとう!」
「あんた、結婚してるからって惰性はだめよ。入江さんに愛想尽かされても知らないから。」
ふふっと桔梗が綺麗な顔に意地悪な笑顔を浮かべると、琴子はむっと眉をしかめた。
不満げに突き出された唇は少し荒れて下唇の中央に痛々しい線が一本はいっている。
「ほら、さっさと塗っちゃいなさい。」
ぽんぽんと頭を撫でて促すと、琴子は素直に頷いてふたを開けた。
ふんわりと香る青リンゴ。
優しい香りに琴子は目を細めた。
人差し指に真新しいリップバームをつけて唇に塗りつける。
が、少し分量が多かったらしく、ぷっくりとした唇からはみ出して光沢を出している。
よし、と本人は至って満足げにふたを閉めていて、桔梗はこれ見よがしに溜息をついた。
「琴子。」低く呼びかけて唇に親指で触れる。
「ひゃっ、なにモトちゃん!?」
急に延びてきた指に唇の輪郭をなぞるように触られて、琴子は焦ったように間抜けな声を上げた。
「はみ出てる。」
数回撫でてようやく離れた指に琴子はほっと息を吐いた。
プレゼントのお礼も込めてにっこり微笑む。
「ありがとう、モトちゃん!」
「この唇が入江さんのと触れると思うと羨ましいわね…。」
「モトちゃん、その言い方変態くさいよ。」
二人で並んでナースステーションに戻る。
その姿は楽しげで、周りにいた者たちはそろって目を細めた。
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「琴子。」
直樹と琴子、二人の寝室。
ベッドに腰掛けた琴子は隣に座る直樹に肩を抱かれて向かい合った。
勤務が不規則で、こうして夜二人で過ごすのは久しぶりだ。
近付いてくる端正な顔に、琴子は頬を赤く染めながら目を閉じた。
「琴子、なんか塗ってる?」
唇を触れ合わせながら囁く直樹に、琴子は苦笑で返した。
あれからようやく直樹と過ごす時間があると分かった琴子は急にケアに気を使った。
桔梗から貰ったリップバームはもう半分ほどの量になっている。
「モトちゃんにね、リップバーム貰ったの。」
「ふぅん。」
自分から聞いたくせに直樹の反応は鈍い。
しかし琴子に不満はなかった。
数日前、切れていた唇はつやつやで、肌触りよく直樹の唇を迎えてくれる。
「リンゴの匂いがする。」
チュッと下唇を吸われ体が震える。
「青リンゴの香りなの。私最初量が上手くとれなくて。べたべたになっちゃった。」
ふふっと思い出し笑いをする琴子に、直樹の眉がよる。
「それで?桔梗の世話になってたのか?」
「ん?入江君何で知ってるの?」
不思議そうに覗き込む琴子。
大きな彼女の瞳に自分だけが映っていることを確認した直樹は琴子をベッドへと押し倒した。
「…ばーか。」
彼女のことは良くも悪くも噂になりやすい。
大したことない日常の些細なことさえ直樹の耳に面白おかしく入ってくることなど、そろそろ気がついてもおかしくはないはずだ。
それでも気がつかないのが琴子なのだろう。
諦めの境地で溜息をつくと直樹はことさら呆れた顔をして見せた。
「もうそろそろ乾燥もましになるだろ。あんまり桔梗に迷惑かけるなよ?」
彼女の言い分も、桔梗が渡した青りんごも丸ごと奪うように唇を重ねる。
二人の唇からはいつしか薄れたりんごの香りがした。
書いたものの、季節はずれやわ。と置いておくこと2週間ほど。
完全に忘れていたので場つなぎ的にアップして置きます。
忘れていた性で更なる季節はずれですが…。
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