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「長編」
stay with me 【完】

stay with me 19

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「会長!」
がたんと椅子を引く音が聞こえて琴子ははっと我に返った。
「やだな。…冗談ですよね。不破さんがあたしと家庭なんて。」
震える声で大泉に尋ねる。
祈るような気持ちで見ていたが、大泉はいつものような朗らかな笑顔を見せてくれることはなかった。
「琴子さんが直樹君を好きなのはよく知っとる。…じゃがな、直樹君は再建のためなら見合いも辞さない覚悟のようじゃ。それ以上に大切なものがあるからじゃろうし、琴子さんに応える覚悟もないんじゃろ。」

大切と琴子が声も出さずに呟く。
直樹は幼少時のトラウマで冷たいように見えるが、本当はそうではない。
今だって、やっと見つけた自分の夢を犠牲にしてまで再建に取り組んでいるのだ。
重樹が一生懸命盛り立てて子供たちを楽しませていたパンダイ。
父親の体調も気になっているに違いない。

それに琴子は昨日、ついに貰ってしまった。
長い間はっきりしなかった告白の答えを。
受け取って貰えなかったラブレターは、琴子の気持ちを直樹に告げはしなかった。
いつの間にか読まれていたものの、はっきりとした答えを貰ったことはない。
嫌いじゃないとは言ってくれたものの、結局は苦手どまりだった。
井の頭公園で見た直樹と昨日の直樹が琴子の意識に浮かんでは沈む。
気が抜けると泣いてしまいそうで琴子はぐっとした唇を噛んだ。

「戯れが過ぎます。…それに俺はこういったものは好みません。」
「…沙穂子はもう帰国させるつもりはない。」
はっきりとした大泉の声に琴子と、不破の視線が集まる。
「もちろん、投資を餌に無理やりとまではワシも思ってない。しかし琴子さんの一途さや根性は得がたい魅力だと思っとるからな。もし二人がうまくいってくれればワシも安心して不破に事業を任せられる。」
二人で相談しなさいとだけ言って大泉は一人席を立った。

**********

二人だけになった室内に痛いくらいの沈黙が落ちる。
美味しかったはずの食事はいまやどんな味だったか、何が並んでいたかまったく思い出せなかった。
いつまでも凍りついたままかと思えたが、時間は確実に過ぎて、不破はやや乱暴に椅子を引いて豪奢な椅子に腰掛けた。
「…とりあえず座れば。」
放心したままの琴子に声をかけると、不破は短い前髪をかきあげる。
ぼーっと視線をさ迷わせていた琴子は不破の言葉に操られるように先ほどまで座っていた椅子に腰を預けた。
「……会長の言うことは気にしなくていい。」
「不破さん。」
午前中に見た琴子よりもさらに痛々しく思えて不破の眉間に眉が寄る。
「会長は俺が沙穂子さんを連れ戻そうとしないのが不満なんだろ。」
「…不破さん。」
ふっと自重するように笑うも、思いのほか強く響いた琴子の声に不破は彼女から目を離すことが出来なくなった。
「…相原さん?」
「不破さんは沙穂子さんを自由にしてあげたいんですよね。…私も。お父さんにも言われちゃったんです。縁がなかったんだって。女も引き際が大事だって。」
「…………。」
「誰が見ても分かるくらい、ぶつかったから、後悔はしません。」
一つ、一つ言葉がこぼれていく。
今にも泣き出しそうなのに、それでも先ほどまでの痛々しい気配はいつの間にか消えていた。
大きな目は強く彼を見つめていて、それが本音かどうか不破には分からなかった。




GW前で、業務量がえぐいことになっています。
残業はないので何とか続きを…。
連休中は特に予定がないので完結が第一目標です。
でも懲りずに甘い話にも挑戦してみたい、ので、調子さえよければいくつか短編も書きます。
時間を置くと書きたかったものを忘れてしまうので、自己満足ですが。
早くお休みが来て欲しいですね。
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