「短編」
結婚後
お昼寝
春には春眠暁を覚えず、という言葉があるらしい。
うららかな陽気に普段起こりえないことも発生する。
久しぶりに理美やじん子とランチを楽しんで帰宅した琴子はリビングのソファーに直樹の背中を見つけた。
彼が昼下がりの早い時間から自宅にいることは珍しい。
琴子は嬉しくなって、後ろから抱きつこうと足音を消して近づいた。
直樹は身長が高いが、足も長いので座高としてはそう飛びぬけて人より高いわけではない。
ソファーの背もたれから頭一つ出ている彼にそっと近寄ると、そこで琴子は初めて直樹が寝ていることに気がついた。
まつげの長い瞼を閉じながらうとうとと船をこいでいる。
そっと辺りを見回してみるが、他の家人は出払っているのか家の中には直樹が微かに立てる寝息と時計の秒針の他は音一つしなかった。
とりあえず傍にあったブランケットをとって直樹の膝にかけると隣に腰をおろす。
ずっと片思いしていた直樹と結婚してまだ季節は一回りもしていない。
大きなベッドで直樹の腕を枕に一緒に寝ることにはようやく慣れてきたが、よくよく考えてみると琴子は彼の寝顔を見たことは数えられるほどしかなかった。
思い起こしてみれば最初に直樹の寝顔を見たのは高校3年のとき、テスト勉強をむりやり見てもらったときだ。
それからは直樹は夜遅くまで勉強しているのに琴子より起きるのが早いせいでなかなか見る機会はなかった。
一緒にベッドに入ることがあってもどっちにしろ琴子が先に疲れ果てて直樹のぬくもりの中で寝てしまう。
こうしてまじまじと無防備な寝顔を見ることはそうない。
「綺麗な顔。」思わず口をついてくる。
そっと吹き出物一つない綺麗な肌を指で撫でると直樹は微かに身じろいだ。
慌てて手を引いて伺うが目覚める気配はない。
しばらく様子をみてほっと息を吐くと、琴子は欲望に抗いきれず左手で髪を抑えると直樹に背を向けるようにゆっくりと彼の膝に頭を横たえる。
硬い膝の感触はお世辞にも寝心地がいいとは言えないが、琴子は「くふふ」と満足げに笑った。
位置を調節するようにお尻をずりずりとソファーの腕置きへと近づける。
直樹は意外にも深く眠っているようなので、彼が起きるまでに起きれば大丈夫だろうと琴子はしばらく憧れのシチュエーションを堪能することにした。
直樹が真ん中寄りに座っていたこともあり、ソファーは琴子が横たわるには少し狭い。
足を下ろしておくことしか出来ず、どうしても直樹の顔が見たくなった琴子は半身をひねるようにして顔だけを真上に上げた。
相変わらず首をもたげるようにして眠る直樹に腕を伸ばす。
「綺麗な顔。」数分前と同じ言葉をまた呟く。
きっと何回言っても飽きないと琴子は思う。
こうして傍にいる限り琴子は直樹を見て繰り返すのだろう。
昔勉強を見てもらったときはこんなことは考えられなかったが、今の琴子は手を伸ばして彼に触ることが出来る。
「入江くん。」
髪をかきあげるように触れた後、琴子は不意に自分にも触れて欲しくなって直樹の手をとった。
指を絡めるように繋ぎ、自分のお腹の前に持ってくる。
春眠暁を覚えず。
だんだんと秒針の音が遠のいて、直樹の寝息だけが琴子の耳に入ってきた。
瞼が下がってきて、起きなければと思う琴子の自由を奪う。
「起きなきゃ…。」むにゃむにゃと発した言葉を最後に琴子は直樹の膝の上で眠りについた。
帰宅した紀子が発狂して写真を取り始めるまで二人の世界は穏やかに過ぎていった。
ここまで同じようなものが続くと、お休みシリーズとしてまとめてもいいのではないかと思えてきました。
連載が止まっているのに、次の連載を考えて逃げております。
今日中に続きがあげれるといいのですが…。
うららかな陽気に普段起こりえないことも発生する。
久しぶりに理美やじん子とランチを楽しんで帰宅した琴子はリビングのソファーに直樹の背中を見つけた。
彼が昼下がりの早い時間から自宅にいることは珍しい。
琴子は嬉しくなって、後ろから抱きつこうと足音を消して近づいた。
直樹は身長が高いが、足も長いので座高としてはそう飛びぬけて人より高いわけではない。
ソファーの背もたれから頭一つ出ている彼にそっと近寄ると、そこで琴子は初めて直樹が寝ていることに気がついた。
まつげの長い瞼を閉じながらうとうとと船をこいでいる。
そっと辺りを見回してみるが、他の家人は出払っているのか家の中には直樹が微かに立てる寝息と時計の秒針の他は音一つしなかった。
とりあえず傍にあったブランケットをとって直樹の膝にかけると隣に腰をおろす。
ずっと片思いしていた直樹と結婚してまだ季節は一回りもしていない。
大きなベッドで直樹の腕を枕に一緒に寝ることにはようやく慣れてきたが、よくよく考えてみると琴子は彼の寝顔を見たことは数えられるほどしかなかった。
思い起こしてみれば最初に直樹の寝顔を見たのは高校3年のとき、テスト勉強をむりやり見てもらったときだ。
それからは直樹は夜遅くまで勉強しているのに琴子より起きるのが早いせいでなかなか見る機会はなかった。
一緒にベッドに入ることがあってもどっちにしろ琴子が先に疲れ果てて直樹のぬくもりの中で寝てしまう。
こうしてまじまじと無防備な寝顔を見ることはそうない。
「綺麗な顔。」思わず口をついてくる。
そっと吹き出物一つない綺麗な肌を指で撫でると直樹は微かに身じろいだ。
慌てて手を引いて伺うが目覚める気配はない。
しばらく様子をみてほっと息を吐くと、琴子は欲望に抗いきれず左手で髪を抑えると直樹に背を向けるようにゆっくりと彼の膝に頭を横たえる。
硬い膝の感触はお世辞にも寝心地がいいとは言えないが、琴子は「くふふ」と満足げに笑った。
位置を調節するようにお尻をずりずりとソファーの腕置きへと近づける。
直樹は意外にも深く眠っているようなので、彼が起きるまでに起きれば大丈夫だろうと琴子はしばらく憧れのシチュエーションを堪能することにした。
直樹が真ん中寄りに座っていたこともあり、ソファーは琴子が横たわるには少し狭い。
足を下ろしておくことしか出来ず、どうしても直樹の顔が見たくなった琴子は半身をひねるようにして顔だけを真上に上げた。
相変わらず首をもたげるようにして眠る直樹に腕を伸ばす。
「綺麗な顔。」数分前と同じ言葉をまた呟く。
きっと何回言っても飽きないと琴子は思う。
こうして傍にいる限り琴子は直樹を見て繰り返すのだろう。
昔勉強を見てもらったときはこんなことは考えられなかったが、今の琴子は手を伸ばして彼に触ることが出来る。
「入江くん。」
髪をかきあげるように触れた後、琴子は不意に自分にも触れて欲しくなって直樹の手をとった。
指を絡めるように繋ぎ、自分のお腹の前に持ってくる。
春眠暁を覚えず。
だんだんと秒針の音が遠のいて、直樹の寝息だけが琴子の耳に入ってきた。
瞼が下がってきて、起きなければと思う琴子の自由を奪う。
「起きなきゃ…。」むにゃむにゃと発した言葉を最後に琴子は直樹の膝の上で眠りについた。
帰宅した紀子が発狂して写真を取り始めるまで二人の世界は穏やかに過ぎていった。
ここまで同じようなものが続くと、お休みシリーズとしてまとめてもいいのではないかと思えてきました。
連載が止まっているのに、次の連載を考えて逃げております。
今日中に続きがあげれるといいのですが…。
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