「長編」
stay with me 【完】
stay with me 18
会長との約束の時間が来て、琴子と不破は書斎を後にした。
不破に先導されて廊下を進む。
両開きの重厚な扉を開けて不破が琴子をエスコートするように場所を空けると、琴子はおずおずと前に出た。
他の部屋と同じく臙脂の絨毯がひかれたリビングは広く、大きな食卓に白いテーブルクロスが眩しい。
中ではすでに大泉会長が席について琴子たちを待っていて、遅れてやってきた二人に相好を崩した。
迎え入れるように席を立つ大泉に慌てて近寄る琴子。
その琴子の背後に大泉が視線を送ると、不破が琴子のために大泉の正面の椅子を引いた。
「慌てなくてもいい。座りなさい。」
優しく声をかけられて大泉に続いて恐縮しながら腰を下ろすと、不破は大きなテーブルを回り、大泉の隣、琴子の斜め向かいに腰を下ろす。
二人が席に着いたのを見て、メイドたちが食事を運んできた。
湯気を立てる暖かな料理が食欲を掻き立てる。
事前に指示があったのか、メインまで一通り食卓に並べて彼女たちは下がっていった。
「さぁ、食事をはじめよう。」
大泉の言葉に頂きますと軽く手を合わせる。
不破が前菜に手をつけたのを見て、琴子も倣うように端に置かれたフォークに手をつけた。
**********
「琴子さん、せっかく来てもらっているのに最近会えなくて悪かったね。」
「いえ。」
主に大泉と琴子が会話をしながら和気藹々とした食事を終えてデザートに手をつけると急に大泉が話題を変えた。
戸惑いながら琴子が返事をする。
「パンダイの件は不破からも報告を受けておるし、安心しておくれ。」
にこにこと目を細めながら大泉は食後のコーヒーに手をつける。
パンダイと聞いて琴子がテーブルの下で強く手を握った。
こわばる表情を伺うように大泉の白い眉毛の下から強い視線がささる。
「…会長、私のほうでも調べてみましたが、パンダイは今早急な援助を必要としているのではないですか?」
琴子の様子を見ながら不破が重い口を開いた。
「ああ、直樹くんの方からも言われとるよ。」
微笑みながら頷く大泉は微塵も焦った様子も見せない。
「あの!入江くん今本当にパンダイを立て直そうと必死なんです!会長に損はさせません!だから「琴子さん」
思わず気色ばんだ琴子に大泉は宥める様に彼女を制した。
「パンダイへの当面の援助はもう決めておる。」
「本当ですか!」
顎をさすりながら告げた大泉の言葉に琴子の顔が嬉々と輝く。
「ああ、当面は短期融資じゃがな。」
「短期…。」
「北泉社も今資金繰りが厳しいじゃ。身内のことじゃが頭の痛い問題もある。」
「会長!」
眉間に寄った皺に不破がすばやく反応する。
身内と聞いて琴子にもすぐ不破の話を思い出した。
しかし大泉から聞いたわけでもないのに口外は出来ない。
先ほどまでとは違い重く物々しい空気が流れる。
一瞬流れた静寂を破るように最初に言葉を発したのは大泉だった。
はぁと溜息をついて不破を見る。
「パンダイは社長代理と資産家令嬢との見合いも視野に話が進んでいるそうだぞ。」
「お見合い…。入江くんが…。」
「沙穂子次第では直樹君と沙穂子を引き合わせてもよかったんだがな。」
ちらりと不破に送られた視線は琴子にはとても冷たく見えた。
「沙穂子はしばらく帰ってこんだろう。わしももう若くない。後継者は不破にと思っておるが先は分からんぞ。」
ぐっと不破が下唇を噛む。
先日不破と沙穂子の話をした時、不破は純粋に沙穂子を思っているように見えた。
「会長…。」
低い不破の声が響く。どう出るのかと緊張した琴子だがその後に言葉が続くことはなかった。
「見合いや政略結婚が前時代的だと言われるが、わしはそうは思わん。人には縁がある。上手くいくかは本人次第じゃが、きっかけがなければ結びつくこともない。じゃろ?」
いつの間にかコーヒーを飲み干していたらしい、ソーサーに戻されたカップにコーヒーは残っていなかった。
「不破。沙穂子とお前は縁がなかった。……どうじゃ、琴子さんと家庭を作ってみんか?」
実は先週から書きかけで放置されていた18話です。
ここを乗り越えたら一気に進む…かもです。
不破に先導されて廊下を進む。
両開きの重厚な扉を開けて不破が琴子をエスコートするように場所を空けると、琴子はおずおずと前に出た。
他の部屋と同じく臙脂の絨毯がひかれたリビングは広く、大きな食卓に白いテーブルクロスが眩しい。
中ではすでに大泉会長が席について琴子たちを待っていて、遅れてやってきた二人に相好を崩した。
迎え入れるように席を立つ大泉に慌てて近寄る琴子。
その琴子の背後に大泉が視線を送ると、不破が琴子のために大泉の正面の椅子を引いた。
「慌てなくてもいい。座りなさい。」
優しく声をかけられて大泉に続いて恐縮しながら腰を下ろすと、不破は大きなテーブルを回り、大泉の隣、琴子の斜め向かいに腰を下ろす。
二人が席に着いたのを見て、メイドたちが食事を運んできた。
湯気を立てる暖かな料理が食欲を掻き立てる。
事前に指示があったのか、メインまで一通り食卓に並べて彼女たちは下がっていった。
「さぁ、食事をはじめよう。」
大泉の言葉に頂きますと軽く手を合わせる。
不破が前菜に手をつけたのを見て、琴子も倣うように端に置かれたフォークに手をつけた。
**********
「琴子さん、せっかく来てもらっているのに最近会えなくて悪かったね。」
「いえ。」
主に大泉と琴子が会話をしながら和気藹々とした食事を終えてデザートに手をつけると急に大泉が話題を変えた。
戸惑いながら琴子が返事をする。
「パンダイの件は不破からも報告を受けておるし、安心しておくれ。」
にこにこと目を細めながら大泉は食後のコーヒーに手をつける。
パンダイと聞いて琴子がテーブルの下で強く手を握った。
こわばる表情を伺うように大泉の白い眉毛の下から強い視線がささる。
「…会長、私のほうでも調べてみましたが、パンダイは今早急な援助を必要としているのではないですか?」
琴子の様子を見ながら不破が重い口を開いた。
「ああ、直樹くんの方からも言われとるよ。」
微笑みながら頷く大泉は微塵も焦った様子も見せない。
「あの!入江くん今本当にパンダイを立て直そうと必死なんです!会長に損はさせません!だから「琴子さん」
思わず気色ばんだ琴子に大泉は宥める様に彼女を制した。
「パンダイへの当面の援助はもう決めておる。」
「本当ですか!」
顎をさすりながら告げた大泉の言葉に琴子の顔が嬉々と輝く。
「ああ、当面は短期融資じゃがな。」
「短期…。」
「北泉社も今資金繰りが厳しいじゃ。身内のことじゃが頭の痛い問題もある。」
「会長!」
眉間に寄った皺に不破がすばやく反応する。
身内と聞いて琴子にもすぐ不破の話を思い出した。
しかし大泉から聞いたわけでもないのに口外は出来ない。
先ほどまでとは違い重く物々しい空気が流れる。
一瞬流れた静寂を破るように最初に言葉を発したのは大泉だった。
はぁと溜息をついて不破を見る。
「パンダイは社長代理と資産家令嬢との見合いも視野に話が進んでいるそうだぞ。」
「お見合い…。入江くんが…。」
「沙穂子次第では直樹君と沙穂子を引き合わせてもよかったんだがな。」
ちらりと不破に送られた視線は琴子にはとても冷たく見えた。
「沙穂子はしばらく帰ってこんだろう。わしももう若くない。後継者は不破にと思っておるが先は分からんぞ。」
ぐっと不破が下唇を噛む。
先日不破と沙穂子の話をした時、不破は純粋に沙穂子を思っているように見えた。
「会長…。」
低い不破の声が響く。どう出るのかと緊張した琴子だがその後に言葉が続くことはなかった。
「見合いや政略結婚が前時代的だと言われるが、わしはそうは思わん。人には縁がある。上手くいくかは本人次第じゃが、きっかけがなければ結びつくこともない。じゃろ?」
いつの間にかコーヒーを飲み干していたらしい、ソーサーに戻されたカップにコーヒーは残っていなかった。
「不破。沙穂子とお前は縁がなかった。……どうじゃ、琴子さんと家庭を作ってみんか?」
実は先週から書きかけで放置されていた18話です。
ここを乗り越えたら一気に進む…かもです。
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~ Comment ~
おばちゃん様
いつもありがとうございます。
続きが楽しんでいただけるかいつも心配なんですが、頑張って書いていきますので、またご感想頂けると嬉しいです!
続きが楽しんでいただけるかいつも心配なんですが、頑張って書いていきますので、またご感想頂けると嬉しいです!
- #10 pukka
- URL
- 2012.04/26 22:37
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