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「短編」
結婚後

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「別れよう。」

静かに告げられた言葉に、琴子の大きな目が零れ落ちんばかりに見開かれた。
よくそんなに目を丸く出来るものだと思いながら直樹が様子を伺っていると、見る見るうちに水分を湛え始め、耐え切れなかった涙が丸い頬を伝う。

「そんな!どうして!」

よほどショックだったのだろう、言い募る琴子の声は震えていた。

「正直、自分以外にとられる時間が勿体ないんだ。仕事に集中していたい。」
「そんな!そんなのってないよ!」

ぽろぽろと際限なく零れ落ちる涙についに耐え切れなくなった直樹は手近にあったティッシュを2、3枚引き抜いて琴子の濡れた頬へと押し付けた。

「琴子。」
「…入江君。」

名前を呼ぶと泣きすぎて充血し始めた目が直樹を映す。
呆れつつも涙を止めてやろうと手を伸ばした瞬間、茶色い色が視界に映ったかと思うとどんっと鈍い衝撃が胸に走った。

「…琴子。」
「いりえくぅん!」
「…もういい。分かったから泣くな。」
「だってぇ…。別れようって…。」

しゃくりあげながらぐずぐずと鼻を鳴らす琴子を抱きしめる。
三流芝居のような流れに、直樹は自分の身に起こっていることながら溜息をついた。

「…所詮ドラマじゃねぇか。」
「だって、だって可哀想だよ!あんなに好きなのに!」

すっかり感情移入しきっているらしく、琴子の涙は止まらない。
次々とシャツに吸い込まれていく涙を感じながら、直樹は琴子の細い髪を指で弄ぶように絡める。

「なぁ…、俺そろそろ風呂に入りたいんだけど。」
「んぅ。」

耳元で囁かれた声に漸く顔を上げた琴子の顔は目も鼻も頬も真っ赤だ。

「ぷっ。お前鼻出てんぞ。」
「ウソッ!…やだ!出てないじゃない!意地悪!」

ぷぅっと頬を膨らませて、慌てて顔を隠していた手でぽかぽかと殴りかかってきた琴子を止めると直樹は膨れた頬を長い指でつつく。

「俺のパジャマは?用意してくれんだろ、奥さん。」

にっと悪戯な笑みに剥れた頬から空気が抜けた。

「入江君…。」
「…いつまでも他の奴の事で泣いてんじゃねぇよ。」

赤くなった小さな鼻をつまんで、文句を言おうとする唇を自らの唇でふさぐ。
いくら感情移入したって無駄なのだから。





タイトル、最初はドラマにしようかと思ったんですが、そのまますぎると思って変更しました。
最初少しドキッとしてもらえたらと思いまして…。

作り物の感じ。
存在証明でもあるかなって。
これもKin/Kiの曲であるタイトルです。
ボキャブラリーがないので中々いいタイトルが出てきません。
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