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「長編」
stay with me 【完】

stay with me 11

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「こんにちは。」

初めての訪問から数週間が立ち、琴子は慣れた様子で大泉宅の門扉をくぐった。
すっかり顔見知りになったメイドや使用人たちが琴子を笑顔で出迎えてくれる。
琴子がいくら跳ねるように歩いても足音一つしないフカフカの絨毯を踏みしめて初日と同じように大泉会長の書斎へと入ると大泉はもう大きなソファーに座って琴子を待ってくれていた。
待ちかねたように笑顔を見せる大泉の横には不破が座っている。

初回で自己紹介をして以来、いない日や遅れて合流する日もあるにはあったが、不破はだいたい会長と一緒にこの部屋にいた。
挨拶をしてすっかり定位置となった会長の正面のソファーに座ると、タイミングよくお茶が運ばれてきて柔らかい湯気を立てる。
今日も一応仕事の話をしようと琴子がぴかぴかの鞄から書類ケースを取り出すと、会長はそれを皺の刻まれた手で制して止めた。

「会長?」

不思議そうな琴子を見て立ち上がると、大泉は自分の執務机に置いてあった書類を持ってきた。
分厚いそれを受け取り、ますます琴子の眉間に皺が寄る。

「実はな、琴子さんに少し頼みごとをしたいんじゃ。」

その皺を見て、会長はいたずらっ子のように笑うとぽんぽんと書類をたたいた。

「琴子さんが持ってきてくれた書類は全て目を通したんじゃが、どうも年寄りにも分からん言葉が多くてな。少し不破と相談して分かりやすくしてくれんか。書庫があるからこの屋敷で事足りるはずじゃ、」

**********

「不破さん、ここどういう意味ですか?」

琴子の眉をハの字にして尋ねると、不破は大業そうに溜息をついた。
眉を吊り上げて不破の背丈以上の高さのある本棚を指差す。
無言の主張に唇を尖らせながら、琴子は指示された本棚から辞書を探す。
ようやく見つけたそれはかなり上のほうにあって、琴子は眉を寄せて棚に寄りかかると踵を浮かせて爪先立ちをした。
背表紙に微かに指が届くが、引っ掛けるには至らない。
んーっと唸りながら飛び跳ねていると、後ろから深い溜息が聞こえた。
すっと背後から長い腕が伸びてきて、琴子を覆うように背後から辞書を抜き取る。

「不破さん。」
「…見ていられない。」

「ほら」っと投げ渡される辞書の重みに、琴子は慌てて両手で受け取るとまたむっと眉を寄せた。

「助けてくれるなら最初から素直に助けてくれたらいいのに。」
小さく言った不満は不破に流されてしまったらしい、不破は特に返事を返すことはしない。
渡された辞書を手に中央に置かれた長机にああでもない、こうでもないとたどたどしい手つきで辞書を引き始めた。

不破の方は一応の成果は出しているようだが、こちらは琴子とはまた別に、提携に関する提案をまとめなければいけないらしい。
なにせ量があるので一日では出来そうにない。
残りは次回に持ち越しということで、パンダイの定時に合わせて解散となった。




風邪が治りません。
すっきりしない体調と同じく今回は進展があまりない上、入江君も出てこず。
次から5話ぐらいは少しお話が動く予定です。
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