「長編」
stay with me 【完】
stay with me 10
琴子は今日大泉邸から直帰となっていた。
もともと琴子が出来る仕事などそうはないのだから、仕事が回らないということはないが、若い社員たちの間では物足りなく思っている者も少なくはないようだ。
いつもの様に懲りずに帰宅時間を聞かれることもなく、直樹は仕事を進めながらも自ら帰宅できそうな時間を計算した。
社内では公表はしていないもののパンダイの経営不振は今や社員達の間でまで話題にされている。
実際、重樹が倒れるまで気づきもしなかったことが悔やまれるほど危険な経営状態にある今、琴子がどんなに誘ってきても定時で帰れたことはそうはない。
社長代理を勤めだした頃はまだ夕食時には帰宅していたが、今ではそれも珍しい。
机の上の書類は山積みで、直樹の決裁を待っていた。
**********
社内にオルゴールの音が鳴る。
それが終わると同時に開いた扉に秘書の視線が向いた。
直樹と目が合って、重樹の信頼する秘書が相好を崩す。
「社長代理、お帰りですか?」
古くからの付き合いのお陰だろう。経営危機を知っていてもこの秘書はどこまでも直樹に好意的だ。
帰る支度の手を止めて微笑んでくれる。
「ええ、申し訳ないですがお先に失礼します。」
ぺこりと頭を下げる直樹を彼は快く送り出してくれた。
***********
直樹が自宅に帰ると琴子はもう帰宅していているようだった。
玄関で小さな靴を確認しながらスリッパに履き替えているとぱたぱたとリビングの方から音がする。
帰宅者を確認しようと出てきたのだろう、琴子はエプロンをして片手でお玉を持って出てきた。
「入江くん!今日は早かったんだね!」
直樹を確認するなり満面の笑みを浮かべている。
機嫌よくご飯もうすぐだからとリビングに戻る琴子の後を直樹は「ああ」とだけ答えてただついて歩いた。
2階で本を読んでいたらしい裕樹は直樹が帰宅したと分かるとすぐに降りてきた。
いつかのように琴子が作った食事を三人で囲む。
相変わらずごりごりと音がするが、さすがに普通に飲み込むことが出来るものも増えてきた。
裕樹は直樹以上に食べなれてしまったのだろう、うまく火が通ってないものを避けて食べているように見える。
今日は大泉会長の所にお邪魔していたこともあり、どこかよそ行きの琴子は直樹に話を聞いてほしいのか、食事の間にちらちらと直樹を見ていた。
視界の端でそのことを確認してばれない様に小さく笑う。
食事が終わり、勢いよく直樹のもとへ来た琴子の報告は大方直樹の予想通りのものだった。
やはり仕事の話などそうはなかったらしく、持たされた書類の内の何枚かに質問されたが、答えは次回でいいそうだ。
それよりー
「入江くん、覚えてる?パーティーで紹介された人。会長に会うだけだと思ったらその人も一緒だったの。」
名刺を貰ったと言った琴子に直樹はその名刺を持ってこさせた。
昼間の資料にも出てきた不破万里。
パンダイとの交渉にも関係するとは言っていたが、琴子を指名したのはこの男にも関係がありそうだ。
「会長、パンダイのこと聞きたかったみたい。」
「提携の話なら書類に書いてあっただろ?」
「それだけじゃ分からないと思って。」
「……琴子、お前余計なことしてないだろうな?」
じろっと見る直樹の目に琴子は目をあわせようとしない。
「琴子。」再度直樹が琴子を呼ぶとむっと唇を尖らせる。
「余計なことじゃないわ、本当のことしか言ってないもん。」
琴子が言うことなのだから、当然悪いことではないだろう。
むしろ聞いているほうが恥ずかしくなるほどの演説を行ったに違いない。
大泉会長の目的は不明だが、提携が上手くいくにしろ琴子が言ったであろう話を会長がどう受け止めるか、一抹の不安を抱える直樹だった。
もともと琴子が出来る仕事などそうはないのだから、仕事が回らないということはないが、若い社員たちの間では物足りなく思っている者も少なくはないようだ。
いつもの様に懲りずに帰宅時間を聞かれることもなく、直樹は仕事を進めながらも自ら帰宅できそうな時間を計算した。
社内では公表はしていないもののパンダイの経営不振は今や社員達の間でまで話題にされている。
実際、重樹が倒れるまで気づきもしなかったことが悔やまれるほど危険な経営状態にある今、琴子がどんなに誘ってきても定時で帰れたことはそうはない。
社長代理を勤めだした頃はまだ夕食時には帰宅していたが、今ではそれも珍しい。
机の上の書類は山積みで、直樹の決裁を待っていた。
**********
社内にオルゴールの音が鳴る。
それが終わると同時に開いた扉に秘書の視線が向いた。
直樹と目が合って、重樹の信頼する秘書が相好を崩す。
「社長代理、お帰りですか?」
古くからの付き合いのお陰だろう。経営危機を知っていてもこの秘書はどこまでも直樹に好意的だ。
帰る支度の手を止めて微笑んでくれる。
「ええ、申し訳ないですがお先に失礼します。」
ぺこりと頭を下げる直樹を彼は快く送り出してくれた。
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直樹が自宅に帰ると琴子はもう帰宅していているようだった。
玄関で小さな靴を確認しながらスリッパに履き替えているとぱたぱたとリビングの方から音がする。
帰宅者を確認しようと出てきたのだろう、琴子はエプロンをして片手でお玉を持って出てきた。
「入江くん!今日は早かったんだね!」
直樹を確認するなり満面の笑みを浮かべている。
機嫌よくご飯もうすぐだからとリビングに戻る琴子の後を直樹は「ああ」とだけ答えてただついて歩いた。
2階で本を読んでいたらしい裕樹は直樹が帰宅したと分かるとすぐに降りてきた。
いつかのように琴子が作った食事を三人で囲む。
相変わらずごりごりと音がするが、さすがに普通に飲み込むことが出来るものも増えてきた。
裕樹は直樹以上に食べなれてしまったのだろう、うまく火が通ってないものを避けて食べているように見える。
今日は大泉会長の所にお邪魔していたこともあり、どこかよそ行きの琴子は直樹に話を聞いてほしいのか、食事の間にちらちらと直樹を見ていた。
視界の端でそのことを確認してばれない様に小さく笑う。
食事が終わり、勢いよく直樹のもとへ来た琴子の報告は大方直樹の予想通りのものだった。
やはり仕事の話などそうはなかったらしく、持たされた書類の内の何枚かに質問されたが、答えは次回でいいそうだ。
それよりー
「入江くん、覚えてる?パーティーで紹介された人。会長に会うだけだと思ったらその人も一緒だったの。」
名刺を貰ったと言った琴子に直樹はその名刺を持ってこさせた。
昼間の資料にも出てきた不破万里。
パンダイとの交渉にも関係するとは言っていたが、琴子を指名したのはこの男にも関係がありそうだ。
「会長、パンダイのこと聞きたかったみたい。」
「提携の話なら書類に書いてあっただろ?」
「それだけじゃ分からないと思って。」
「……琴子、お前余計なことしてないだろうな?」
じろっと見る直樹の目に琴子は目をあわせようとしない。
「琴子。」再度直樹が琴子を呼ぶとむっと唇を尖らせる。
「余計なことじゃないわ、本当のことしか言ってないもん。」
琴子が言うことなのだから、当然悪いことではないだろう。
むしろ聞いているほうが恥ずかしくなるほどの演説を行ったに違いない。
大泉会長の目的は不明だが、提携が上手くいくにしろ琴子が言ったであろう話を会長がどう受け止めるか、一抹の不安を抱える直樹だった。
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~ Comment ~
こんばんは。
>おばちゃん様
コメントありがとうございます!
拙い話ですが、待って頂ける方がいらっしゃるだけで励みになります。
今日は会社行事で書けませんでしたがお休みの間に頑張りますのでよろしくお願いします!
コメントありがとうございます!
拙い話ですが、待って頂ける方がいらっしゃるだけで励みになります。
今日は会社行事で書けませんでしたがお休みの間に頑張りますのでよろしくお願いします!
- #4 pukka
- URL
- 2012.04/14 00:57
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