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「短編」
結婚後

time

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走り続けて微かに息が弾みはじめた。
束ねた髪を揺らしながら走り抜ける琴子に、昼下がりの廊下を歩いていた人々が振り返る。
琴子を見つめる瞳には幾分か面白がるような色が浮かんでいたが、数日前までとは全く違う色合いに琴子は早く早くとせかす足をそのまま前へと動かしながらふふっと笑みを浮かべた。

―「違うな。」
―「嫉妬してた。」
―「必要なのは俺だ。」

賑わいかえる食堂で告げられた言葉は1週間たった今でも琴子の胸を刺激する。
あの時、直樹が啓太に、琴子に本当の気持ちを言ってくれなかったらどうなっていたか。
直樹にずっとつかえていた気持ちを吐露して、本気で終わってしまうのかと思っていた。
「最初からあたしのことなんか好きじゃなかったんでしょ」
そうだと言われるのが怖くてずっとずっと言えなかったから。
こんな機会がもててよかったのかもしれないと今は思う。

あの時間はきっとこれからの直樹との関係にとってきっとかけがえのない時間だ。
ターニングポイントというのだと桔梗が教えてくれた。

いつでも好きだと言い続けて来た。
いつでも思いをこめて抱きしめて来た。

つれない態度を不満に思うことはあっても、不安に思う必要はないのだとはじめて思えた。
必要として貰えている、それがこんなに嬉しいことだと知ってしまったら、もう絶対に直樹から離れられないと琴子は思う。
今も。直樹に会いたくて会いたくて、どんなに息が乱れても琴子の足が止まることはない。
ようやく思い焦がれてきた広い背中が見えて勢いを殺さないまま飛びつく。

足音から琴子が来たことは分かっていたのだろう。
直前に振り返った直樹は、それでも受け止めきれずに琴子の腰を抱いて1歩後ろに後ずさった。

「琴子。」低い声が琴子を呼ぶ。
「入江君、大好きだよ。」微笑む琴子に直樹が苦笑で返す。
素直じゃない反応は相変わらずだが、これは照れ隠しだと琴子は思うことにする。

「知ってるよ、十分にね。」

あの時がターニングポイントだと思っているのはなにも琴子に限ったことではない。

見えない振りをしてしまったけれど、琴子が自分だけを思ってくれているのは誰よりも直樹が自分の肌で感じている。
その琴子が不安に思っていたことをぶつけられて世界は二回目の変化をもたらした。

すぐに琴子が望むような言葉を言ってやれるような事はないが、こういうとき、すっと受け入れられるようになったと思う。

これからどんなことがあっても。
ずっとずっと一緒に。

そう信じられるから。


You changed me baby.
Because you gave me so much love.



Kin/KiのTimeを聞きながら。
この歌詞聴いてるとイリコトが嫉妬を乗り越えた時の2人にぴったりかなって。
「あの時」、そう振り返れる一瞬一瞬が大切だと思います。
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