stay with me ９

一人になった室内で、直樹は長い足を組んだ。
用意させたファイルを開きながら眉をしかめる。

今日、パンダイの代表者として琴子は大泉会長の屋敷に招待されていた。
不安を露にする琴子に、発破をかけはしたものの、初回から直接屋敷にとはやはり素直には解せない招待だ。
一応失礼にならないように専務が色々と指導はしていたようだが、大泉が琴子に期待しているのはその様なことではないだろう。
何か疑問を探る糸口になればと用意させた資料ではあったが、経済的なことはまず琴子には関係ないはずだと直樹は思った。
提携が持ち上がったときにもその方面のことは調べがついている。
さすが大企業なだけあって紙面を賑わすようなことも少なくなかったようだが、安定した企業収益はさすがの一言だ。
それよりも、と直樹は用意された新しいコーヒーを口に運びながら大泉会長の家族構成など個人的なことがまとめられた資料に目を通した。

どうやら大泉グループは会長の父親が一代で起こした会社が前身らしく、その会社を会長と、今は亡き会長の弟であそこまでの大企業に押し上げたらしい。
現在は会長の息子が社長を勤めて会社を纏め上げているが、息子である社長には男子はいない。
そこで後継者として名前が上がってきたのが不破万里。

そこまで読み上げて直樹は眉を上げた。
大泉にパーティーで紹介された時から只者ではないと思っていたものの、どうやら彼は会長の弟の孫、らしい。
大泉会長の血族の中でも格段に優れた男で、大泉の名に甘えるのを嫌がって不破家に婿入りした父親の意を汲んで、不破として大泉会長の片腕にまでのし上がったようだ。

会長ただ一人の孫である大泉沙穂子嬢と婚約間近かと騒がれたこともあるようだが、現在沙穂子は海外留学中で真相は明らかにされていないとある。

不破の何もかもが面白くなさそうな瞳を思い出し、直樹は重い溜息をついた。
資料に目を通したところで分かった事は会長の唯一の孫は日本国内におらず、不破万里という男が後継者に上がっていることだけだ。
会長の孫と言えば、大泉の財力を狙うものにとって喉から手が出るほどに欲しいカードだろう。
実際にパンダイも会長が直樹を気に入っていたのもあり、社内から話が持ち上がってきたこともある
しかし本人が国内にいないのであればその話もご破算だろう。
執務机の引き出しに目を通したファイルを厳重にしまいこむと、直樹は眉間をほぐすように右手で軽く額を覆った。
琴子がいないせいか、今日のパンダイはどうも静かだ。

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「震度２で全壊か。それは大変じゃのう。」
「…ありえない。」
「そうなんですけど、本当なんです。それでお父さんと入江君のお家にお世話になって！」

もう何杯目かの暖かい紅茶を飲みながら、琴子は勢い込んで話した。
大泉の本宅でありながら、どこか砕けた空気が漂っているのは、もう仕事という雰囲気が微塵もないせいだろう。
不破もここには来慣れているのか、長い足を組んで琴子の話に茶々を入れている。
好意的な大泉とは違い、どこか意地の悪いそれは琴子に直樹を思いださせた。

「入江くんは私のこと嫌々ながらも色々助けてくれて、無愛想だけど優しいんです。」

ふへっと笑う琴子に大泉の相好が崩れる。
しらけた目で琴子を見ている不破の腕をひじで突きながら大泉はにやりと笑った。

「どうじゃ、不破。琴子さんの話は面白いじゃろ？」
「支離滅裂。主観ばっかりで意味が分かりません。」

ふんと顔を背ける不破に、琴子が不満そうに頬に空気を溜める。

「入江ってこの前紹介されたやつですよね。…なんでも出来る顔をして…気に入りません。」
「それはお前もじゃろ。なぁ、琴子さん、不破と直樹君は似ていると思わないか？」

嫌そうに不満を隠そうともしない不破に琴子の視線が無遠慮に注がれる。
が、すぐに琴子は首を左右に振った。

「申し訳ないですけど、入江くんのほうが素敵です。」

きっぱりと言い切る琴子に不破が軽く目を見開く。
大泉の御前で彼のお気に入りと称されている不破が否定されるなど、通常ありえない。
しかしその琴子の返答に大泉は満足げだ。

「そうか。やっぱり琴子さんは面白い。」

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ほぼ説明文で読みにくいですよね。
数話前からですけどもう完全に別物です。
入江君と琴子がなかなか一緒にならない。