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「長編」
stay with me 【完】

stay with me 6

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「相原。」

裕樹たちと一緒に緊張しながらの挨拶を終え、立食形式のパーティーを楽しんだ数日後。
琴子は普段彼女のことなど相手にしないような相手から声をかけられた。
立場上のこともあるのかもしれないが、彼の眉間にはいつも悩ましげに皺が寄っている。
琴子に声をかけたその時もそうだった。

「専務、どうされたんですか?」

社長の重樹が穏やかなので、その反動か、どこか気忙しい雰囲気の専務は琴子に声をかけるなり、ついてきなさいと背を向ける。
相変わらず不器用ではあるが、それでも最近は目立った失敗は減っている。
それでなくても専務から直接注意されるような心当たりのない琴子は、首を傾げながら専務の後をついて歩いた。


「実はな、大泉会長がこれからのパンダイとの交渉は相原を窓口にとおっしゃっていてな。」

案内された小さな面談室で進められたソファーに座ると、とたんに専務は言いづらそうに口を開いた。
きょとんと琴子の目がこぼれそうに丸くなる。

「大泉会長が?」
「そうだ、…心当たりはないか?」

心当たりと言われても、琴子としては二度対面したことがあるだけで、たいした話をした記憶もない。
満足できる答えなどあるはずもなく、琴子は戸惑いながらも首を左右に振った。
「そうだろうな」と専務の口から溜息がもれる。

「ともかく、大泉との提携は我が社にとっても大仕事だ。理由は分からないが、大泉会長から直々に相原をご指名だからな。くれぐれも失礼のないように頼むぞ。」

困惑する琴子に断る隙を与えず、専務は話を打ち切って重たい腰を上げた。
これ以上の説明は専務にも出来ないのだろう、どこか心配そうに気遣う視線を向けられながら琴子は退出を促されて面談室を出た。

**********

勤務時間の終了を知らせる音楽が鳴る。
パンダイではそれは玩具会社らしく柔らかい童謡のオルゴールなのだが、意識して聞いている人間がどれだけいるだろう。
早くも社内は金曜日の開放感に満ちているようで、直樹のいる室外からは活気のある声が聞こえてきていた。
短いオルゴールの音が最後の一章節を奏でる。
最後の音が鳴り終わった瞬間、それを待ちわびていたように社長室の扉がノックされた。

「はい。」と一言だけで静かに答えると、琴子が静かに、それでも心持ち忙しなく室内にその小さな体を忍び込ませてきた。
「入江くん。」控えめな声には不安げな色に彩られている。

「琴子。専務から聞いたんだろ?」

大泉会長からの要望は当然社長代理を務める直樹の耳にも入ってきていた。
最初聞いたときは意外な名前に驚いたものだが、よくよく考えると大泉会長は琴子を気に入っている節があったし、彼女の人柄がそうさせるのか誰もが適わないようなことにほど琴子は能力を発揮する。
不安そうな琴子を見ながらも、なぜか直樹には彼女なら大丈夫だろうという自信のようなものがあった。

「うん、どうして私なんだろう。」

戸惑う琴子に直樹は「さぁな」と素っ気ない。

「大方どれだけ苛めても堪えなさそうだと思ったんじゃねぇの。」

にやりとからかうように口角を上げると、琴子は直樹の予想通りぷっと頬を丸める。

「もうっ、私は真面目に言ってるのに。」
「大泉会長じゃねぇんだからわからねぇよ。なるようにしかならねぇんだからあんまり気負わないほうがいいんじゃねぇか?」

琴子は琴子らしく。
先日に紀子にも貰った言葉が脳裏を掠めて琴子はにこっと笑みを浮かべた。

「そうだね。私だって入江君の役に立つんだって証明して見せるんだから。」

ぐっと握られた拳が突き上げられる。
相変わらずころころと変わる目まぐるしく変わる琴子の表情に、直樹は知らずに笑みを見せた。
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