「短編」
結婚後
the grass is always greener on the other side
「琴子さんて、どうして直樹さんと結婚したの?」
グロスで彩られた唇の下に人差し指を当てた美紀は妙に甘ったるい声を出しながら首を傾げた。
「えっ?」
美紀の五指全てに綺麗に施されたネイルに視線を釘付けにされていた琴子は途端に目を丸くして美紀を見た。
一瞬今まであった女性たちの言葉が頭をよぎった琴子だったが、どうにも違和感を感じる。
「どうしてって…。」
「だぁって、直樹さんって冷たいし、目つき悪いし、ぜんぜん素敵じゃないじゃん。」
今まであった女性たちは全員、直樹を褒めちぎり琴子を見下すようにしていたのに…。
美紀の目はそれとは全く違った。
ぷっくりとした唇を突き出し、不満げな表情をして見せたかと思うと、「琴子さん可哀想…」とまでのたまった。
プルプルと琴子の小さな手が震える。
「な、なんですってー!」
**********
「ったく、それで喧嘩したのか?」
寝室でベッドに座って足だけを布団に入れた琴子の話を聞きながら、直樹は重い溜息を吐いた。
「だってぇ!!」
「褒められたら褒められたで騒ぐくせに。」
呆れを隠そうともしない直樹の声に琴子は一瞬うっと息を詰まらせると、布団を蹴り上げ、身を乗り出すようにして直樹に近づいた。
「だって!だってね、あの人、毎朝人目もはばからずいちゃいちゃいちゃいちゃしてるのよ!」
「ふぅん、それで?」
琴子が近づくことによって直樹の座る側のベッドが沈む。
息巻きながら近づく妻を見ることなく、直樹は読んでいた医術書のページをまた一枚めくった。
「なのに入江くんのことを悪く言うなんて!」
「…なぁ自分が支離滅裂なこと言ってるの気づいてるか?」
「しり…なぁに?」
ふっと直樹の手が止まり、自分の方を見てくれたことで顔を輝かす琴子が首を傾げる。
狙ったものではないだろうがその顔は見ようによってはあどけなく可愛らしい。
風呂上りの自然な桃色の頬が少し薄暗い寝室でも琴子の雰囲気を明るく彩っている。
化粧気はないが、無防備な姿は誰でもが見れるものではなく、直樹は苦笑しながら栞を挟んで本を閉じた。
もう今日の勉強は終わりと言う合図だ。
「…いや、いい。」
それを正しく察したのか、琴子は「そう?」とだけ言うとごそごそと移動して自分の定位置に腰を下ろした。
「ああ。それよりお前明日は遅番だな。」
「そうだけど…あっ…。入江くん…。」
***********
「あなたぁ、行ってらっしゃい。」
「ああ、行ってくるよ。出来るだけ早く帰ってくるからな。」
「はぁい。本当に早く帰ってきてね。」
語尾にいくつもハートマークがついていそうな会話に、琴子は思わず眉をひそめて声のする方を見た。
琴子に見られていることも気にせず、美紀は彼女の旦那である巧の腕に抱かれ、彼の首に腕を回しながら唇を重ねている。
「ぅー。」
「おい、琴子。鞄から手を離せよ。」
「あっ、ごめんね、入江くん!」
隣に気を取られていた琴子は直樹の声にぱっと手を離した。
急に腕にかかる重みに一瞬眉をしかめながら直樹は琴子に背を向ける。
「いっ、行ってらっしゃい!!!」
「ああ。琴子…朝から物欲しそうにうなってんじゃねぇぞ。」
「そんなんじゃないってば!もうっ、気をつけてね!」
ひらひらと小さく手を振りながら門扉を出て行く直樹を、琴子は姿が見えなくなるまでいつまでも手を振って見送っていた。
美紀の同情をこめた視線を右半身から感じながら。
***********
「もう!あの夫婦!!いくら新婚だからって!」
「またか、他所は他所だろ。」
最近連日のようにぷりぷりしている琴子に直樹はちらっと視線をやった。
隣の芝生は青いとはよく言ったもので。
影響されやすい琴子は毎日のように繰り広げられるバカップルぶりに当てられているらしい。
琴子にしては珍しく非常識だと怒っては見ているが、本音はただ羨ましいのだろうと直樹は思っている。
直樹を見て女性が示す反応は大きく二つに分かれていることが多い。
直樹を天才だと誉めそやして近づいてくるか、口では近寄りがたいと言いながらもちらちらと見てくるか。
それを美紀は全くして来なかった。
ハネムーンの際、同じく新婚であった麻里もハワイにいる間はほぼ直樹について回っていたのに。
美紀は彼女の旦那に夢中だと体中で表現して、彼女のパートナーである旦那にも同じ濃度で返してもらっている。
若干行き過ぎなのは否定できないが、お互い好きあって一緒にいるのだからそれが当たり前で当然の姿だ。
今までは琴子へのからかいもあり、直樹に言い寄っていた女性が多かったに過ぎない。
琴子だって直樹に向けられた非難を本気で怒っているわけではないし、旦那に恋する女性として美紀の気持ちは痛いほど分かるだろう。
自分たちだって表現の仕方こそ違うが、求め合って結婚したもの同士でもある。
だからこそ、これは少しの羨望。
「琴子。俺は嫌だぜ?」
「わっ、分かってるもん!」
ぷんと琴子が顔を逸らす。
結婚してすでに数年。
直樹が言葉や態度で表現してくれることなど少ないことは百も承知だし、琴子がまとわりつくことを本気で嫌がっているわけではないことは知っている。
周りにはつれなく見えていても二人にとってはそうでないことを本人たちだけが知っていればいいとは分かっていても。
「……でも、ちょっと羨ましいんだもん。」
琴子はいつだって直樹を欲しがるから。
「ったく、一回だけだからな。」
「 」
なんとか間に合いました!
光/一君の舞台が発表されてなにかと忙しく、今日中のアップは諦めようかと思いましたが。
開設して初めてのイリコト結婚記念日!
結局記念日感は一切ありませんでしたが甘めを目指しました!
12月からまたライブが始まるので前半に更新できたら…。
拍手等頂けると力になります。よろしくお願いします!
SHOCK、1000回記念当選しますように!!
……言霊言霊…。
グロスで彩られた唇の下に人差し指を当てた美紀は妙に甘ったるい声を出しながら首を傾げた。
「えっ?」
美紀の五指全てに綺麗に施されたネイルに視線を釘付けにされていた琴子は途端に目を丸くして美紀を見た。
一瞬今まであった女性たちの言葉が頭をよぎった琴子だったが、どうにも違和感を感じる。
「どうしてって…。」
「だぁって、直樹さんって冷たいし、目つき悪いし、ぜんぜん素敵じゃないじゃん。」
今まであった女性たちは全員、直樹を褒めちぎり琴子を見下すようにしていたのに…。
美紀の目はそれとは全く違った。
ぷっくりとした唇を突き出し、不満げな表情をして見せたかと思うと、「琴子さん可哀想…」とまでのたまった。
プルプルと琴子の小さな手が震える。
「な、なんですってー!」
**********
「ったく、それで喧嘩したのか?」
寝室でベッドに座って足だけを布団に入れた琴子の話を聞きながら、直樹は重い溜息を吐いた。
「だってぇ!!」
「褒められたら褒められたで騒ぐくせに。」
呆れを隠そうともしない直樹の声に琴子は一瞬うっと息を詰まらせると、布団を蹴り上げ、身を乗り出すようにして直樹に近づいた。
「だって!だってね、あの人、毎朝人目もはばからずいちゃいちゃいちゃいちゃしてるのよ!」
「ふぅん、それで?」
琴子が近づくことによって直樹の座る側のベッドが沈む。
息巻きながら近づく妻を見ることなく、直樹は読んでいた医術書のページをまた一枚めくった。
「なのに入江くんのことを悪く言うなんて!」
「…なぁ自分が支離滅裂なこと言ってるの気づいてるか?」
「しり…なぁに?」
ふっと直樹の手が止まり、自分の方を見てくれたことで顔を輝かす琴子が首を傾げる。
狙ったものではないだろうがその顔は見ようによってはあどけなく可愛らしい。
風呂上りの自然な桃色の頬が少し薄暗い寝室でも琴子の雰囲気を明るく彩っている。
化粧気はないが、無防備な姿は誰でもが見れるものではなく、直樹は苦笑しながら栞を挟んで本を閉じた。
もう今日の勉強は終わりと言う合図だ。
「…いや、いい。」
それを正しく察したのか、琴子は「そう?」とだけ言うとごそごそと移動して自分の定位置に腰を下ろした。
「ああ。それよりお前明日は遅番だな。」
「そうだけど…あっ…。入江くん…。」
***********
「あなたぁ、行ってらっしゃい。」
「ああ、行ってくるよ。出来るだけ早く帰ってくるからな。」
「はぁい。本当に早く帰ってきてね。」
語尾にいくつもハートマークがついていそうな会話に、琴子は思わず眉をひそめて声のする方を見た。
琴子に見られていることも気にせず、美紀は彼女の旦那である巧の腕に抱かれ、彼の首に腕を回しながら唇を重ねている。
「ぅー。」
「おい、琴子。鞄から手を離せよ。」
「あっ、ごめんね、入江くん!」
隣に気を取られていた琴子は直樹の声にぱっと手を離した。
急に腕にかかる重みに一瞬眉をしかめながら直樹は琴子に背を向ける。
「いっ、行ってらっしゃい!!!」
「ああ。琴子…朝から物欲しそうにうなってんじゃねぇぞ。」
「そんなんじゃないってば!もうっ、気をつけてね!」
ひらひらと小さく手を振りながら門扉を出て行く直樹を、琴子は姿が見えなくなるまでいつまでも手を振って見送っていた。
美紀の同情をこめた視線を右半身から感じながら。
***********
「もう!あの夫婦!!いくら新婚だからって!」
「またか、他所は他所だろ。」
最近連日のようにぷりぷりしている琴子に直樹はちらっと視線をやった。
隣の芝生は青いとはよく言ったもので。
影響されやすい琴子は毎日のように繰り広げられるバカップルぶりに当てられているらしい。
琴子にしては珍しく非常識だと怒っては見ているが、本音はただ羨ましいのだろうと直樹は思っている。
直樹を見て女性が示す反応は大きく二つに分かれていることが多い。
直樹を天才だと誉めそやして近づいてくるか、口では近寄りがたいと言いながらもちらちらと見てくるか。
それを美紀は全くして来なかった。
ハネムーンの際、同じく新婚であった麻里もハワイにいる間はほぼ直樹について回っていたのに。
美紀は彼女の旦那に夢中だと体中で表現して、彼女のパートナーである旦那にも同じ濃度で返してもらっている。
若干行き過ぎなのは否定できないが、お互い好きあって一緒にいるのだからそれが当たり前で当然の姿だ。
今までは琴子へのからかいもあり、直樹に言い寄っていた女性が多かったに過ぎない。
琴子だって直樹に向けられた非難を本気で怒っているわけではないし、旦那に恋する女性として美紀の気持ちは痛いほど分かるだろう。
自分たちだって表現の仕方こそ違うが、求め合って結婚したもの同士でもある。
だからこそ、これは少しの羨望。
「琴子。俺は嫌だぜ?」
「わっ、分かってるもん!」
ぷんと琴子が顔を逸らす。
結婚してすでに数年。
直樹が言葉や態度で表現してくれることなど少ないことは百も承知だし、琴子がまとわりつくことを本気で嫌がっているわけではないことは知っている。
周りにはつれなく見えていても二人にとってはそうでないことを本人たちだけが知っていればいいとは分かっていても。
「……でも、ちょっと羨ましいんだもん。」
琴子はいつだって直樹を欲しがるから。
「ったく、一回だけだからな。」
「 」
なんとか間に合いました!
光/一君の舞台が発表されてなにかと忙しく、今日中のアップは諦めようかと思いましたが。
開設して初めてのイリコト結婚記念日!
結局記念日感は一切ありませんでしたが甘めを目指しました!
12月からまたライブが始まるので前半に更新できたら…。
拍手等頂けると力になります。よろしくお願いします!
SHOCK、1000回記念当選しますように!!
……言霊言霊…。
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