「短編」
結婚前
ビターショコラ
「入江くん、お誕生日おめでとう!」
「これ…。」と差し出された箱の中身は毎回違っていたけど、それに籠められた思いだけは彼女の手に乗る小さな箱には収まりきらないほど詰まっていたことは痛いほど感じていた。
恋だの愛だの、そんなものに必死になるなんて馬鹿らしいとせせら笑っていた彼には理解できないくらいの甘ったるい感情。
けして両親の仲が悪いわけではないのに誰かと手を取り合って歩む自分なんて想像も出来なかった。
他の同級生たちのように浮かれた感情を持つこともなかった。
それなのにあの小さな手だけは離さないでいたいなんて。
押し付けた唇の甘さをもっと味わってみたいだなんて。
彼女から与えられていた甘い甘い感情が、ほろ苦いを通り越してただの苦痛に成り下がりそうになってようやく気づくだなんて。
馬鹿にしていた感情は甘いだけではないと言うことを彼は彼女を知って初めて学んだ。
「入江くん。」
時計の針が十二時を迎える少し前
帰宅した彼を、物音を聞きつけた彼女は寝巻き姿で出迎えてくれた。
「お疲れ様。今日も遅かったね。」
無言で立ち尽くす彼に視線を合わせられず、もじもじと手を後ろに組む彼女はきっと知らない。
彼が、彼女が出てくることを期待してわざと足音を立てながらも彼女の部屋の前になるとゆっくり歩いていたことを。
きっと用意してくれているであろう贈り物を期待していたことを。
「あの、あのね。あたし、どうしても今日中に入江くんに会いたかったの…。」
小さくつむがれる言葉。
彼女の大きな瞳が彼を写すと同時にすっと目の前に差し出された箱に知らず彼の目が細まる。
「これ…。」
彼女の手に収まるような、綺麗に包装された箱。
「お誕生日おめでとう。」
それを手に微笑む彼女が愛おしくて、言葉にならない気持ちのままに彼は彼女をそっと両手で包んだ。
「い、入江くん!?」
「…静かにしろよ、おふくろが起きてくるだろ?」
普段の積極的な態度とは別の彼女に彼が小さく笑うと、むくれた彼女がぎゅっと強く彼に抱きついてきた。
片手で贈り物を大切に抱えながら。
「い、入江くんがちゃんと受け取ってくれないからじゃない。」
「受け取ってるよ。」
箱から溢れそうな愛情ごと彼女の全てを。
「…中身、気に入ってくれるといいな。」
「どうせまた一日中探してたんだろ。」
「もう!もっとほかの事に時間を使えって言いたいんでしょ。でもね、今回は違うんだよ。お母さんと言ったブライダルエステの帰りね、いいお店を見つけたの。絶対に入江くんに似合うと思って!」
「ふぅん。」
「出来たら使って欲しいな。」
「ああ。ゆっくり見させてもらうよ。…コーヒー淹れてくれるか?」
「もちろん!」
にっこりと微笑みながら彼女が彼の腕から離れる。
踊るように階下に降りようとする彼女の背中に彼は思い出したように声をかけた。
「…そうだ、琴子。」
「うん?」
なぁに?と戻ってくる彼女にスーツのポケットから小さな包みを取り出す。
「口あけろよ。」
「口?」
首を傾げながらも「あーん」と彼女が口を開くと簡易包装された包み紙を剥いで彼女のピンク色の唇に持っていく。
小さなそれは彼女の口の中にころんと姿を消した。
「チョコレート?」
もごもごと租借して彼女が彼を見上げる。
「ああ、取引先から貰ったあまり。」
「…あんまり甘くないんだね。」
「そうか?」
「うん。食べてないの?」
「甘そうだったから。」
「ビターみたい。あたしにはちょっと苦いく…」
言いかけた彼女の唇を塞ぐ。
「甘いよ。」
彼の心のように。
彼女のぬくもりでとけていく。
お久しぶりです。
すっかりご無沙汰で…。
入江くんの誕生日から一日遅れましたが折角の機会。
久しぶりにPCの前に座ってみました。
相変わらずの文ですし、似たような文章の並ぶサイトに期待してくださる方がいらっしゃるか分かりませんが、始めたからには全て終わらせてから止めようと思っております。
それまでに書きたいものもいくつかありますし。
年末に向けて忙しくなってきたのでゆっくりではありますが…。
自己満足のために始めたサイトですので満足いく文が書けるように頑張ります。
今回もイメージは同タイトルの曲から。
改めて聞いていたら歌詞がまんま当てはまる気がしました!
「これ…。」と差し出された箱の中身は毎回違っていたけど、それに籠められた思いだけは彼女の手に乗る小さな箱には収まりきらないほど詰まっていたことは痛いほど感じていた。
恋だの愛だの、そんなものに必死になるなんて馬鹿らしいとせせら笑っていた彼には理解できないくらいの甘ったるい感情。
けして両親の仲が悪いわけではないのに誰かと手を取り合って歩む自分なんて想像も出来なかった。
他の同級生たちのように浮かれた感情を持つこともなかった。
それなのにあの小さな手だけは離さないでいたいなんて。
押し付けた唇の甘さをもっと味わってみたいだなんて。
彼女から与えられていた甘い甘い感情が、ほろ苦いを通り越してただの苦痛に成り下がりそうになってようやく気づくだなんて。
馬鹿にしていた感情は甘いだけではないと言うことを彼は彼女を知って初めて学んだ。
「入江くん。」
時計の針が十二時を迎える少し前
帰宅した彼を、物音を聞きつけた彼女は寝巻き姿で出迎えてくれた。
「お疲れ様。今日も遅かったね。」
無言で立ち尽くす彼に視線を合わせられず、もじもじと手を後ろに組む彼女はきっと知らない。
彼が、彼女が出てくることを期待してわざと足音を立てながらも彼女の部屋の前になるとゆっくり歩いていたことを。
きっと用意してくれているであろう贈り物を期待していたことを。
「あの、あのね。あたし、どうしても今日中に入江くんに会いたかったの…。」
小さくつむがれる言葉。
彼女の大きな瞳が彼を写すと同時にすっと目の前に差し出された箱に知らず彼の目が細まる。
「これ…。」
彼女の手に収まるような、綺麗に包装された箱。
「お誕生日おめでとう。」
それを手に微笑む彼女が愛おしくて、言葉にならない気持ちのままに彼は彼女をそっと両手で包んだ。
「い、入江くん!?」
「…静かにしろよ、おふくろが起きてくるだろ?」
普段の積極的な態度とは別の彼女に彼が小さく笑うと、むくれた彼女がぎゅっと強く彼に抱きついてきた。
片手で贈り物を大切に抱えながら。
「い、入江くんがちゃんと受け取ってくれないからじゃない。」
「受け取ってるよ。」
箱から溢れそうな愛情ごと彼女の全てを。
「…中身、気に入ってくれるといいな。」
「どうせまた一日中探してたんだろ。」
「もう!もっとほかの事に時間を使えって言いたいんでしょ。でもね、今回は違うんだよ。お母さんと言ったブライダルエステの帰りね、いいお店を見つけたの。絶対に入江くんに似合うと思って!」
「ふぅん。」
「出来たら使って欲しいな。」
「ああ。ゆっくり見させてもらうよ。…コーヒー淹れてくれるか?」
「もちろん!」
にっこりと微笑みながら彼女が彼の腕から離れる。
踊るように階下に降りようとする彼女の背中に彼は思い出したように声をかけた。
「…そうだ、琴子。」
「うん?」
なぁに?と戻ってくる彼女にスーツのポケットから小さな包みを取り出す。
「口あけろよ。」
「口?」
首を傾げながらも「あーん」と彼女が口を開くと簡易包装された包み紙を剥いで彼女のピンク色の唇に持っていく。
小さなそれは彼女の口の中にころんと姿を消した。
「チョコレート?」
もごもごと租借して彼女が彼を見上げる。
「ああ、取引先から貰ったあまり。」
「…あんまり甘くないんだね。」
「そうか?」
「うん。食べてないの?」
「甘そうだったから。」
「ビターみたい。あたしにはちょっと苦いく…」
言いかけた彼女の唇を塞ぐ。
「甘いよ。」
彼の心のように。
彼女のぬくもりでとけていく。
お久しぶりです。
すっかりご無沙汰で…。
入江くんの誕生日から一日遅れましたが折角の機会。
久しぶりにPCの前に座ってみました。
相変わらずの文ですし、似たような文章の並ぶサイトに期待してくださる方がいらっしゃるか分かりませんが、始めたからには全て終わらせてから止めようと思っております。
それまでに書きたいものもいくつかありますし。
年末に向けて忙しくなってきたのでゆっくりではありますが…。
自己満足のために始めたサイトですので満足いく文が書けるように頑張ります。
今回もイメージは同タイトルの曲から。
改めて聞いていたら歌詞がまんま当てはまる気がしました!
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~ Comment ~
>RuRu様
コメントありがとうございます!
最近思うように更新できていませんが、今月はまだ結婚記念日もありますし、マイペースに続けられたらなと思います。
是非またコメントいただけると嬉しいです。
最近思うように更新できていませんが、今月はまだ結婚記念日もありますし、マイペースに続けられたらなと思います。
是非またコメントいただけると嬉しいです。
- #47 pukka
- URL
- 2012.11/17 00:52
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